GORGOM NO SHIWAZAKA

ゴルゴムのしわざか!

映画『君たちはどう生きるか』感想(ネタバレ)

映画『君たちはどう生きるか』の感想になります。
ネタバレを含みますので、お読みになる際はご注意ください。

※本作は、製作側の方針により事前情報がほぼシャットアウトされています。「何も知らない状態で見て欲しい」という意図が感じられるので、まだ未見の方は映画を見てから本記事を読まれることを強くオススメします。

 

もくじ

 

概要

スタジオジブリの最新作であり、宮崎駿監督の10年ぶりの新作である本作。

2013年の『風立ちぬ』を最後に引退宣言をしていた宮崎駿監督ですが、2017年に引退を撤回し、本作の制作を開始。「自分は既に引退しており、引退しながらやっている」と言っていたそうですが、「…どういうことだってばよ?」と思ったのは僕だけではないはず。トンチか?
ともあれ、そこから6年もの時間を費やし、ようやく今年公開と相成りました。

 

これまでの作品では日本テレビなどがスポンサーに入り、公開前にTVコマーシャルなどのプロモーションをバンバンやってきましたが、本作は完全にジブリの単独資本であり、CMや予告編といった宣伝を一切しない、それどころか完全に情報を遮断する方針になっているのが特徴となっています。公開前に出している情報は、宮崎駿が監督をすることと、1枚のポスターだけ、という徹底ぶり。どういったお話なのか、キャストは誰なのか、そういったことは公開まで一切不明のままでした。

それによって、観客は事前に得られる情報が全くない状態となり、非常に新鮮な気持ちで見ることが出来ます…が、世間の知名度が下がることで集客が落ちる可能性もある、いわば諸刃の剣ですよね。天下のジブリだからこそ出来る芸当、といったところでしょうか。

THE FIRST SLAM DUNK』でも同様の戦略を取り、結果的に見事大成功したわけですが、本作は果たして。

 

原作・脚本・監督は、宮崎駿
同名のベストセラー本がありますが、それがベースにはなっていないようで、ストーリーはオリジナルとなっています。これまでの作品では、監督が自身でほぼ全てのカットに手を入れていたんだそうですが、本作ではそういったことはせず絵コンテの制作に専念している、とのこと。ジブリも結構前から後継者不在が懸念されていましたが、今は世代交代が進んでいるということでしょうかね。

音楽はジブリ御用達の、久石譲が本作でも担当。

キャストはこれまでのジブリ作品と同様、俳優陣が多く起用されています。
…が、鑑賞後も誰がどの役をやっているのか、正直よくわかってなかったり。転売とかで映画見てない人に情報を知られるのを危惧しているのか、パンフもまだ発売していないし、公式サイトとかもないので、今のところ知るすべがないんですよね。ほんと、ずいぶん徹底した情報規制だなぁと。なので、あらすじや感想部分で書いてるキャストはもしかすると間違っている可能性がありますので、あしからず。
あ、キムタクの声だけはすぐにわかりました(笑)

 

ちなみに、情報収集のためにWikipediaを見たらストーリーがまるごと書いてあったので、本記事以上に鑑賞前に見るのは止めといた方が良いと思います。このあとガッツリネタバレする僕が言えた義理ではないですが、こういう作り手の思いを無視するようなことはやめてほしい…。

 

予告編

なし。

 

 

 

 

 

※注意!※
この先はネタバレ全開になりますので、鑑賞後にお読みいただければ幸いです。

 

 

 

 

 

あらすじ

1944年、戦時中の日本。

東京で暮らす少年、牧眞人(声:山時聡真)は、空襲で母の久子を亡くします。
その後、父の正一(声:木村拓哉)と共に疎開し、母方の一族が暮らしている大きなお屋敷に移り住むことになりました。駅では正一の新しい妻、夏子(声:木村佳乃)が出迎えてくれました。広大な敷地内には建物が複数あり、大叔父様が建てたという古い塔は、不思議な雰囲気を感じさせます。

以前からこの辺りに住み着いている野鳥、“覗き屋”のアオサギ(声:菅田将暉)は、なぜか牧眞人に付きまとってきます。追い払おうとする牧眞人ですが、アオサギは突如人間の言葉をしゃべり出し、謎めいたことを嘯くのでした。

「あなたをずっとお待ちしておりました。お母様に会いたければ、私についてきてください――」

というのがあらすじ。

 

本編感想

非常に作家性が強いというか、クセのある映画だと思いました。

本作を見て、「何が言いたいのかわからない」と思う人も結構いるのではないでしょうか。
監督自身も試写会で、「おそらく、訳が分からなかったことでしょう。私自身、訳が分からないところがありました」と言っていたそうですが、「…どういうことだってばよ?」と思ったのは僕だけではないはず。自分の作品でしょ…?

正直、僕も鑑賞直後は「結局どういう映画だったんだろう…?」と思ってしまいました。ただ、「監督がこれまで歩んできた、創造と共にあった人生とその終焉、あるいは継承」を描いていると解釈すれば、かなり腑に落ちる作品なのではないかと思います。

 

監督は、実にたくさんの作品を生み出し、世に送り出してきました。
そんな彼の頭の中にある世界、それが本作における“下の世界”なのかなと。つまり、それを作り出した大叔父様(声:火野正平)は、監督自身の投影と言えるかもしれません。現実世界を離れ、自分が創造した世界に閉じこもった大叔父様と監督自身を重ねるというのは、なんとも自虐的のようにも思えます。

大叔父様の作り出した世界は限界を迎えており、跡を継ぐ者を探していました。どうやら血縁者にしか継ぐことが出来ないらしく、白羽の矢が立ったのが、主人公である牧眞人。
血縁者ということは、つまり息子の宮崎吾朗氏を差しているのか?とも思いましたが、「同じくらいの情熱を持っている人」と拡大解釈した方が、なんとなく楽しい気がしました。

あの世界は“積み木”を積むことで成り立っており、大叔父様は牧眞人にも積み木を積んで世界を作って欲しいと持ち掛けます。ここで、積み木に使われている石を「お墓と同じじゃないか」と言う牧眞人のセリフには、「もう自分は過去の人間である」という監督の思いが伝わってくるような気がしました。積み木はつまるところ監督がこれまで作ってきた作品のことであり、牧眞人にあとを託そうとする姿は、「次の世代の人達もどんどん作品を作っていって欲しい」という願いの表れのように思えます。

そこへ、この世界に住むインコたちの長であるインコ大王(声:國村隼)が現れ、「こんな石ころのために」と言って勝手に積み木を触り、崩してしまいます。大王のこの行動は、現実に確かに存在する“悪意”や、製作上どうしても生じてしまう“大人の事情”を感じさせるものでした。大王=関係者(お偉いさん)が、積み木=監督の作品を“石ころ”などと軽んじて考えているところなんか、何とも皮肉。

最終的に“下の世界”は崩壊し、牧眞人は現実世界に戻ることになります。
本来は現実に戻ってくるとあの世界にいたときの記憶は消えるそうですが、牧眞人は落ちていた石(積み木と同じ素材)をポケットに入れて持ち帰ったことで、記憶を保ったままでした。大叔父様の思いは牧眞人に受け継がれた、ということでしょうか。そして、その直後のアオサギの「でもじきに忘れるよ。間違いなくね」という言葉は、「あの頃の情熱もいずれ失われる」という意味合いにも受け取れます。なんというか、考えさせられますね。

 

そんな感じで、監督の思想や人生観なんかが色濃く反映されている作品だと思いました。

もちろん、僕の解釈が監督の意図と完全に一致しているとは思いませんし、そもそも全てを拾えているとも思いません。ですが、「私自身、訳が分からないところがありました」という監督の言葉は、鑑賞後に思い返してみると「見た人それぞれに違った解釈があっていいんですよ」ということなのかなーと思えてきて、なんだか全てを肯定してもらえている気分になりました。なんか、こうして自分が思ったことを文章にまとめていくうちに、どんどん本作を好きになっていくような感覚があります。

ただ、「そして2年後、牧眞人たち一家は東京へと戻るのでした。おしまい。」というオチは、ちょっとあっさりし過ぎかなと。もうちょっとどうにかならなかったのか…?と、どうしても思ってしまいます。

 

あ、もう1点だけ。
主人公、牧眞人について。いや、牧眞人とその家族についてかな。

牧眞人は、なかなか聡明な子のようですが、これまでのジブリの主人公のような快活さは無く、まるで感情が無いかのように大人しい性格なのが印象的でした。そのくせ、意外と喧嘩っ早かったり、言い訳のために自分で傷をつけたり、アオサギを容赦なく殺そうとしたり、彼の心の中にも“悪意”が確かに存在しているのが面白いなーと。監督が割とネチネチとした少年時代を送っていたので、子供だからって無邪気で明るいキャラクターじゃなくてもいいんじゃないかと考え、こうしたとかなんとか。

父の正一については、一見するとすごく男らしくて、軍需工場を経営して成功している立派な人物のようですが、端々から「他人を下に見ている」感じが滲み出ていて、絶妙な違和感を感じさせるキャラクターだったのが、かえって魅力的でした。戦争を喜んでいるような発言をするとか、学校に金積んでどうにでも出来ると思ってるとことか、妻を亡くして間もないのにすぐ新しい妻(しかも前妻と似た人)と子供作るとか、ね。ただ、牧眞人に対してはしっかりと愛情を注いていて、決して悪い人物ではない、というのがまた良き。

夏子に関しては、あんなに優しいはずがない、何か裏があるはずだと思っていたら、特にそんなことはなかったんだぜ。産屋で牧眞人に「あんたなんか大嫌い!出ていって!」と叫ぶところは若干の狂気を感じましたが、恐らく本心ではなかったようですし。

 

他の女性キャラ、例えば若い姿のキリコ(声:柴咲コウ)やヒミ(声:あいみょん)、屋敷に奉公している老婆たちなどは、なんともジブリっぽくて良かったです。

 

おわりに

少々短めですが、こんなもんにしときます。

そういえば、土日ということもあってか、僕が鑑賞した回は座席が9割ほど埋まっていました。宣伝一切なしでもこれだけ人を呼べるというのは、やはりジブリ、そして宮崎駿のブランド力は強し、ということでしょうね。

老若男女がみんな楽しめるかと言うとそうではないけれど、刺さる人には刺さる、そんな作品なのではないかと思います。本作で今度こそ引退になるのかはわかりませんが、僕の個人的な思いとしては、宮崎駿監督には今後ともマイペースに、自分の作りたい作品を作っていって欲しいものです。

とにもかくにも、早くパンフを売っておくれーい。

 

↓貼る画像が無いので、主題歌CDでも載せときます。

ということで、映画『君たちはどう生きるか』の感想でした。

ではまた。