GORGOM NO SHIWAZAKA

ゴルゴムのしわざか!

映画『雄獅少年 ライオン少年』感想(ネタバレ)

映画『雄獅少年 ライオン少年』の感想になります。
ネタバレを含みますので、お読みになる際はご注意ください。

 

もくじ

 

概要

本作は、中国にて製作された長編CGアニメーション映画。

中国獅子舞を題材とし、演者を目指す主人公が苦悩や挫折を味わいながらも、ひたむきに獅子舞に向き合う姿を描いているのが特徴となっています。

 

日本でも民俗芸能として広く知られる獅子舞ですが、一説によると発祥は1世紀~2世紀ごろの中国であり、日本には奈良時代に中国より伝わったといわれているそうで、英語圏で「ライオン・ダンス」と呼ばれるのは、主に中国式のものを指すんだそうです。中国では国家級無形文化遺産にも登録されており、旧正月などの祝い事の際に披露されることの多い中国獅子舞。大きく分けて北派と南派があり、本作で扱われているのは南派です。ジャッキー・チェンの映画『ヤングマスター 師弟出馬』に登場する獅子舞も、南派のものらしいですね。南派は色鮮やかな色彩と力強く猛々しい動きが特徴で、舞の完成度を競う競技大会なども実際に行われているんだとか。

そうした中国獅子舞特有の“獅子舞バトル”を、CGアニメの長所を最大限に生かした美麗な映像とアクロバティックなアクションで、見事に映像化しています。

 

本作は中国国内では2021年に公開され、その年の作品満足度第1位を獲得するほどの大ヒットを記録。その後、2022年に『雄獅少年 少年とそらに舞う獅子』の邦題で日本語字幕版が公開されると、日本でも絶賛の嵐。それを受けて日本語吹替版も製作されることとなり、そうして今年5月に再び公開されたのが、僕が今回見た『雄獅少年 ライオン少年』になります。

なぜか邦題が変更されていますが、なんでわざわざダサいタイトルに変えたんだろ…字幕版の時のままでいいのに…と思うのは僕だけでしょうか?「ライオン少年」って、なんかカタコトっぽくないですか…?

 

吹替版に起用されているのは、豪華な声優陣。

主人公の声を務めるのは、大ヒットアニメ『鬼滅の刃』の竈門炭治郎役でおなじみの、花江夏樹

ヒロインの声に、モデルや女優として活躍する、桜田ひより

そのほか、山口勝平落合福嗣山寺宏一甲斐田裕子といった豪華な面々が脇を固めています。

 

予告編


www.youtube.com

 

あらすじ

とある小さな農村。
ここで暮らすチュン(声:花江夏樹)は、ちょっと気弱だけど心優しい少年。彼の家は貧しく、長い間出稼ぎに出ている両親の帰りを待ちながら、祖父と共に生活していました。

季節はもうすぐ春節(旧正月)。
村では獅子舞の演武が行われており、活気に満ちていました。黒獅子チームのリーダーに目を付けられたチュンは、祖父からもらったお年玉を奪われてしまいます。そこへ現れた謎の赤い獅子。華麗な動きで黒獅子を翻弄し、お年玉を奪い返してくれます。その正体は、チュン(声:桜田ひより)という少女でした。同じ名前ということで何かの縁を感じた彼女は、チュンに獅子頭をプレゼントします。

そこから獅子舞の世界に夢を抱くようになったチュンは、友達のマオ(声:山口勝平)とワン公(声:落合福嗣)を誘い、チームを結成。彼らはかつて一流の演者だった塩漬け魚屋のチアン(声:山寺宏一)に師事し、チアンの妻、アジェン(声:甲斐田裕子)の叱咤激励(ほぼ叱咤)を受けながら、獅子舞の競技大会への出場を目標に、演者として成長していく――。

というのがあらすじ。

 

本編感想

ちょこちょこ映画.comとかで新作映画のチェックをしていて、一応本作の存在は知っていたんですが、「あっ中国の映画か…(察し)」みたいに思っていて、全くノーマークだったんです。

ですが、ついったーで絶賛されているのを目にして、なんだかすごく興味が湧いてきたので、休みだった06/10の新宿バルト9の上映スケジュールを見てみたら、日本語版主題歌を歌うのんさん(じぇじぇじぇの人)の舞台挨拶付き上映なんてものがあるではありませんか!

 

…しかし、気付くのが遅くて席は既にほぼ満席。ほかにいい時間の上映が無かったので、仕方なく次の休みに見ることにしました。

 

で、見た後の率直な感想としては、噂に違わぬ非常に面白い映画でした。いやー、見逃さなくて本当に良かった。クライマックスの熱い展開には、思わず泣いてしまいましたよ。

全体的なプロット、特に前半の展開に関しては、よく言えば王道、悪く言えば使い古されたよくあるスポ根もののようなお話だったように思います。「何の取り柄もない少年が、美少女と運命的な出会いをする」とか、「一癖も二癖もある仲間と共に、目標に向かって頑張る」とか、「どこにでもいるオッサンが実はとんでもなくすごい人物だった」とか、「店の手伝いと体力づくりを兼ねた修行シーン」とか、とかとか。どれもがどこかで見たことのある描き方だなぁと。中国では逆にこういうの少ないのかな。知らんけど。…いや『少林サッカー』とかあるか。

ただ、“持たざる者”が目標に向かって懸命に努力する姿というのは、非常に普遍的で日本人にも受け入れやすく、この辺が日本でのヒットに繋がったのではないかと思います。

 

また、本作では現代の中国で深刻な社会問題となっている「留守児童」について真正面から描いており、なんというか考えさせられました。

都市部と農村部との経済格差によって、農村に住む大人は都会へと出稼ぎに行かないと生活出来ず、そして残された子供は、経済的にも心理的にも不安を抱えながらの生活を強いられてしまう。親のしつけや勉強が不十分なまま育った子供は、人格形成にも支障をきたしてしまうことがあるんだそうです。

news.yahoo.co.jp

今やアメリカに次ぐ世界第2位の経済大国である中国にも、こうした問題な根強く残っていることに、僕は少なからず衝撃を受けました。まぁ、一応第3位の経済大国らしい我が国日本も、他の国のこと全く言えないと思いますけど…。元トップが国民に殺害されたり、国を守るはずの人が銃を乱射したり、政治や社会に不満が無ければこんな事件は起こらないはずですもんね。

 

本作の主人公チュンや、マオ、ワン公らも、留守児童です。

両親と離れ離れになっているチュンたちは、日々に希望を見出せず、自分に自信を持てません。ガタイのいい男にすごまれれば、自分に非が無くてもすぐに引き下がってしまいます。仏様に願うのは、いつだって「父さん母さんが早く帰ってきますように」、これだけ。たった一度の“奇跡”を望むことさえも許されない、つらい毎日を送っています。そんな彼らも、獅子舞をきっかけに「一度くらいチャンスを掴みたい」と奮起し、競技大会本選への出場を決めるなど、少しずつ毎日が充実してくる、のですが…。

そんな矢先、チュンの父が事故に遭い、植物状態に。家族は再び絶望の淵へと落とされてしまいます。貧困層の人たちが生きていくことの難しさをリアルに描いており、現実味がありました。また、そこで迷わず「自分が出稼ぎに出て家族を養う」という決断をするチュンの姿には、本当にいたたまれない気持ちになります。

 

一方、ヒロインの方のチュンは、それとは対照的。

詳細な描写は無かったですが、恐らく都市部で生活しており、自分の車も所持していて、何不自由ない生活を送っているであろうことが予想出来ます。一流のバイオリニストやピアニストが裕福な家庭の育ちであることが多いのと同じで、彼女も恵まれた環境で獅子舞の練習が出来たからこそ、前大会のチャンピオンになれたのでしょう。いくつも仕事を掛け持ちして懸命に日々を生きている主人公チュンに対し、優しい言葉をかけられるのも、きっと彼女にいろんな意味で余裕があるからなんだと思います。多分無自覚だと思いますが。

そうした格差を嫌が応にも思い知らされて、もし僕がチュン♂と同じ立場だったら、チュン♀に対して激高してしまうかもしれません。「あんたはいいよな、人のことを気にかけるだけの余裕があって」と。でも、優しいチュン♂は決してそんなことは言わない。いやもしかすると、日々に忙殺されてそうした気力も失せてしまっているのかもと思うと、余計につらくなります。

 

でも、だからこそ。
だからこそ、終盤の展開は僕の心を強く打ちました。

より高い報酬を求めて、遠く離れた上海へ行くことを決めたチュン♂。忙しい日々でも獅子舞の練習を欠かしてはいないようでしたが、それももう終わり…。チュン♀からもらった獅子頭を持って行かず、駅へと向かいます。それはつまり、獅子舞との決別を意味していました。

大切にしていたはずの獅子頭を「置いてきた」と言うチュン♂を見かねて、友人が「まだ列車の出発まで時間があるから」と半ば強引に競技大会の会場へ彼を連れて行くわけですが、友人も夢を諦めて欲しくない気持ちがあったんでしょうね。全く、いいヤツだぜ。

 

最終的に、仲間のピンチを目にしたチュン♂も大会へ飛び入り参加します。が、この展開も特に目新しいものがあるわけではありません。しかし、「毎日仕事で走り回っていたおかげで、ものすごく体力がついている」という、これまでの苦労が結実したような展開に、すっかりチュンたちに感情移入していた僕は、なんかもう、すごく感動してしまいました。劇中の太鼓の音に合わせて、僕の「魂が吠える声」が聞こえてくるようでしたよ…。

様々なルールで“獅子舞バトル”が展開される競技大会本選のシーンは、いよいよ本作の本領発揮という感じで、全編に渡りどストレートに僕のテンションゲージをブチ上げてくれました。

ただ、チュン♀にイケメンメガネビジネスマン的な彼氏がいるくだりは、ちょっとイラっとしてしまいました。何から何まで恵まれやがって…(血涙)

 

決勝まで勝ち進んだチュンたち“塩漬け魚チーム”は、ラストで遂にひとつの“奇跡”を起こします。

詳しくはぜひ見てくださいってことで割愛しますが、「あと一歩届かなかったけど、その片鱗を見せた」って感じにまとめているのがすごくいい塩梅だと思いました。さらに、それに呼応するように、もうひとつの奇跡が…?といったところで映画は幕を閉じます。ここも敢えて一瞬だけの描写にして、実際どうなのかを曖昧にしているところがまた絶妙。

 

ミッドクレジットでは、チュン♂がまた出稼ぎの仕事に戻っているというのが、これまたリアリティがあって良かったです。某大国だったら「その後、彼は獅子舞の新たなスターになったのだった」みたいな終わり方になりそうですしね(それが良くないというわけではないですけども…)。

競技大会の写真を見ているチュンの表情はなんとも晴れやかだったので、あの日の“奇跡”が“希望”となり、彼の人生を照らしてくれているのでしょう。

 

おわりに

感想はこんな感じになります。

チュン♀には若干怒りが湧きましたが、チュン♂を引き立たせるために敢えて対極の立ち位置にしているとすれば、最大級の効果があったのではないかと。好きにはなれないけど、必要なキャラだったと思います。どうもありがとう。…ええ、結局のところひがみですよ、そうですとも。

あと書き忘れてましたが、CGアニメのクオリティが非常に高くて驚きました。獅子舞の毛並みとかすごくリアルで、色鮮やかな獅子舞の色彩も相まって、映像的な見応えも抜群でした。やはり金かけるといいものが出来るんですかねぇ。

 

まだ公開している劇場はあるはずなので、この素晴らしい作品をぜひ多くの方に見ていただきたいです。

ということで、映画『雄獅少年 ライオン少年』の感想でした。

ではまた。