GORGOM NO SHIWAZAKA

ゴルゴムのしわざか!

映画『オオカミの家』感想(ネタバレ)

映画『オオカミの家』の感想になります。
ネタバレを含みますので、お読みになる際はご注意ください。

南米・チリにて、1960年代に実在したドイツ系移民を中心としたコミューン、コロニア・ディグニダ。国を追われた元ナチス党員のドイツ人たちが設立したもので、性的虐待や拷問、殺害などによって運営されていたカルト団体だそうです。

それをベースとして製作されたのが、本作『オオカミの家』になります。

公式サイトによると本作のジャンルは“ホラー・フェアリーテイル”アニメーションというらしいです。その言葉の意味はイマイチよくわかりませんが(笑)、ストップモーション・アニメーションにて製作された、不気味で奇妙な世界観が最大の特徴となっています。

 

コロニア・ディグニダの詳細については以下をご参照ください。

ja.wikipedia.org

まぁ、それっぽい集落で暮らしていた少女が主人公というだけなので、これを知らないと本作を理解できない、というわけではないです。というかそもそも、本作を理解できる人がどれだけいるのか疑問…。

 

もくじ

 

概要

監督は、クリストバル・レオンと、ホアキン・コシーニャのコンビ。
チリ出身のビジュアル・アーティストで、長編映画を手掛けたのは本作が初となります。監督以外にも、脚本・美術・撮影・アニメーションなどを2人で務めています。

 

撮影場所はチリのほか、オランダ、ドイツ、メキシコ、アルゼンチンの美術館を使用しているそうで、部屋のセットに等身大の人形や絵画を作って撮影している、とのこと。また、制作過程や制作途中の映像をエキシビジョンの一環として観客に公開するという、非常に面白い手法で作られているんだそうです。制作風景すら芸術作品になるというのは、なんとも興味深いですね。

 

本作の知名度を一気に押し上げた出来事が、『ヘレディタリー/継承』や『ミッドサマー』などで知られるアリ・アスターが、本作を一晩で何度も鑑賞するほどに惚れ込み、彼の監督最新作『ボーはおそれている』(日本では来年公開予定)のアニメパートの制作にレオンとコシーニャを抜擢した、というエピソード。『ボーは~』も悪夢を映像化したような作品のようですし、『ジョーカー』などでおなじみのホアキン・フェニックス主演だし、公開されたら必ず見に行きたいと思っています。

更にアリ・アスターは、レオン&コシーニャが手掛ける短編映画『』の製作総指揮も務めるなど、すっかり2人の才能にお熱な様子。日本では『オオカミの家』と併せて、こちらの作品も併映されています。

 

それと、本作のおぞましくも美しいデザインのポスターは、日本の塚本陽(きよし)という方がデザインされたんだとか。出来上がったポスターを見て、レオン&コシーニャ監督は「泣きそうになった」と大絶賛したそうです。ほかにも、海外の映画やCDのジャケットのデザインなどを数多く手掛けているようですね。すごいお方だ。

 

予告編


www.youtube.com

 

あらすじ

チリ南部の、とある集落。

そこで暮らしていたマリアという少女は、ある日ブタを逃がしてしまい、厳しい罰に耐えかねて集落を脱走します。森へと逃げ込んだ彼女は一軒家を見つけ、助けを求め家の中へ。しかしそこには誰もおらず、代わりに2匹の子ブタがいました。2匹にペドロアナという名前を付け、かわいがるマリア。すると、子ブタは人間の子供の姿へと変わり、マリアは自分の子供のように世話をするのでした。

そこへ、外から彼女を狙うオオカミの鳴き声が聞こえてきます。すると、怯えるマリアの心を反映するように、子供や部屋がどんどん変貌していき――。

というのがあらすじ。

 

併映短編『骨』について

『オオカミの家』の感想の前に、ちょっとだけ『骨』についても感想をば。

こちらは近年、美術館建設のための発掘調査の際に見つかった映像で、1901年に作られた世界初のアニメーション作品…という設定。つまり嘘です。実際は2021年に制作されました。こちらもストップモーション・アニメーションで作られ、全編白黒の映像になっています。上映時間は15分程度で、『オオカミの家』の前にまずはこちらを見る形になっていました。

内容は、とある少女が2つの人間の死体を使って、何らかの儀式をおこなっているのを撮影した、といったもの。死体の人物は、チリの政治における超重要人物らしいです。『オオカミの家』に負けず劣らず、こちらもなんともグロテスクで奇妙な、悪夢のような作品になっておりました。

上の写真の通り少女が生首を抱きかかえていたり、バラバラになった死体がひとりでに動き出したりと、これ実写で作ってたら相当恐ろしい映像だったろうな…。現に、少女が急に実写になって踊りだすシーンをはじめ、ところどころ実写映像が挟まれていたのですが、それがなんだかとても怖かったです。ストップモーションって怖さやグロさが減るわけではないのに、嫌悪感みたいなのが少しマイルドになるような気がするので、多分僕はそういうところが好きなんだと思います。基本怖いの苦手なので。

 

結局儀式の正体は、「理想の伴侶を作り出す」のが目的だったのかな?よくわかりませんでしたが、この手の作品って「わけわからないこと」を楽しむもんだと思っているので、そういう意味では非常に楽しむことが出来ました。

 

本編感想『オオカミの家』

さて、ここからは『オオカミの家』の感想に行きたいと思います。

まず特筆すべきは、ストップモーションというジャンルにとどまらない、その独創的な映像。部屋の壁にキャラクターなどを直接描いて、それを塗りつぶしてはまた描いて…というのを繰り返すことで動いているように見せていて、まるで絵画がそのまま動いているようでした。トリックアートのような見せ方で立体感を出していたのも良かったです。

ほかにも、粘土で作られた人形や、紙テープを巻き付けて作られたような人形が出てくるのですが、あえて粗雑なつくりというか、材料の質感をわざと残しているのがすごく芸術的で、同時にどこか無機質な感じというか、不気味さも演出しているように思えて、非常に見応えがありました。

 

本作は、コミューンの代表と思しき人物の語りから始まります。「今から見ていただく映像は、私たちが暮らしているコミューンの宣伝映像です。これを見れば、ここがいかに良いところなのか、ご理解いただけるはずです」みたいな語り口だった、はず。つまり、外の人たちへ発信するために作られた映像(という設定)であり、ぜひウチへおいでください、ってことだと思うのですが、コレを好意的に見れる人は相当イッちゃってる人だけの気が…。こういうところでも狂気を感じさせてゾクゾクしますね。

イッちゃってる人といえばこの方。

その後は延々と夢か現かわからない、悪夢のような映像がずっと続きます。『マッドゴッド』がものすごく不快で腐臭のする悪夢だとしたら、こちらは無臭だけど生理的嫌悪感に満ちた悪夢のような、そんな感じ。…うん、絶対伝わらねぇ。

この手の作品って、理解とか納得とか、そういうものから最も遠いところにあるように思います。なんとなくめんどくさい言い方をしましたが、つまりはずっとわけわからなかった、ということです(爆)
でも、それでいいんじゃないかと。『マッドゴッド』の時も同じようなこと言った気がしますが、このおどろおどろしくも美しい映像に身を任せる、というのもまたひとつの鑑賞方法なのではないかと、そう思うのです。少なくとも、僕は本作を見てよかったと、心からそう思っています。楽しみ方って、人それぞれだよね、という話です。(言い訳ともいう)

 

仕事終わりのレイトショーで見たからか、中盤あたりで少しウトウトしてしまったのですが、後半~終盤にかけては狂気に満ちた映像のオンパレードで、目を離せませんでした。ラスト、オオカミの正体は明らかになりますが、あの家は何だったのか、どうして子ブタを残して住人がいなかったのか、全てはマリアの見た悪夢だったのか…といったところはイマイチ判然としない終わり方とかも、また秀逸だと思いました。

 

おわりに

だいぶ短いですが、これ以上書くこともないので、これにて終わりとさせていただきます。

ずっと見たいと思っていた作品だったのですが、タイミングが合わずになかなか見に行けず、そうこうしてたらよく行く映画館での上映が終わってしまったので、半ば諦めていました。しかし、千葉県の柏へ行った際に、駅前周辺をブラブラ歩いてたらたまたまキネマ旬報シアターという映画館を発見。しかもちょうど本作の上映やってる!という感じで、これも何かの運命と思い、鑑賞してきた次第。映画館の雰囲気もすごく良くて、定期的に行きたいと思いました。

www.kinenote.com

ほかにもまだ上映している映画館は全国各地に結構あるみたいです。かなり人を選ぶと思いますし、おいそれとオススメはしづらい作品ですが、もし興味があればぜひ見ていただきたいです。悪夢を楽しみましょう。

ということで、映画『オオカミの家』の感想でした。

ではまた。