GORGOM NO SHIWAZAKA

ゴルゴムのしわざか!

映画『マッドゴッド』感想(ネタバレ)

映画『マッドゴッド』の感想になります。
ネタバレを含みますので、お読みになる際はご注意ください。

目次

 

概要

フィル・ティペットという方をご存じでしょうか。

今ほどCGの技術が発展していなかった1980年代は、映画撮影にストップモーション(人形などを少しずつ動かして撮影し、それをコマ送りのように連続して見せることであたかも動いているかのように見せる映像技法)が頻繁に用いられていました。フィル・ティペットはそんな時代に活躍したストップモーション・アニメーターで、その道では知る人ぞ知る、特殊効果の第一人者です。『スター・ウォーズ』のAT-ATのシーンや、『ロボコップ』の巨大ロボットとのバトルシーンなど、彼のことは知らずとも、彼が手掛けたシーンの数々は多くの人の心に残っているのではないでしょうか。ジョージ・ルーカススティーヴン・スピルバーグギレルモ・デル・トロなど、錚々たる面々から称賛の声が上がっていることからも、彼の功績がいかに大きいものだったのかがわかります。

 

そんな映画界に無くてはならない人物だったフィル・ティペットですが、90年代に転機を迎えます。
スティーヴン・スピルバーグ監督の『ジュラシック・パーク』の撮影時、当初は恐竜のシーンにはストップモーション(正確にはフィルが発明したゴー・モーションという技術)が使われる予定でした。しかし、CGで作られた恐竜の映像があまりにも素晴らしかったことから、全ての映像をCGで制作する方針に変更され、フィルは降板となってしまいます。結局再び招聘され恐竜全体の動きなどを監修したそうですが、その時の彼の絶望感は凄まじかったようで、「オレの仕事は絶滅した」と漏らし、数週間寝込んでしまうほどだったそうです。

 

本作の構想は1990年公開の『ロボコップ2』の撮影後からあったようで、個人的に制作を続けていたそうですが、上記の『ジュラシック・パーク』でのショックからその制作は中断されてしまいます。そこから20数年後、彼の会社であるティペット・スタジオの若いスタッフが制作途中の人形やセットを発見し、彼らの熱意に押される形で本作の制作は再始動。クラウドファンディングで制作資金を募ったところ、目標を大きく超える額が集まり、そうして構想から約30年もの年月をかけて完成したのが、本作『マッドゴッド』になります。

全編がストップモーションと時折実写も混ざった独特な映像で構成され、フィル・ティペット監督の悪夢を元にしたという、まさにこの世のものとは思えない凄まじい世界観が最大の特徴となっています。

 

…とまぁ、こんなWikipediaなどを見ればすぐにわかるようなことをなぜわざわざ書いたかというと、この辺の話も本作の一部として欠かせないと思ったからです。こうした事情を知った上で鑑賞すると、より本作を楽しめるのではないかと思います。

 

さて、前置きはこのくらいにしておいて、ぼちぼち感想の方に移らせていただきます。

 

予告編


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あらすじ

おぞましい怪物たちが跋扈する、地下深くの暗黒世界。
ラストマン(演:アレックス・コックス)と呼ばれる男によって、地上よりアサシンと呼ばれる人物が地下へと派遣されます。

そこで彼が目撃したのは、まさしく“地獄”と呼ぶにふさわしい、混沌極まりない世界――。

というのがあらすじ。

 

本編感想

本作には、セリフも無ければ世界観の説明もありません。そのため、どうして人類は絶滅寸前なのか、どうして地下には怪物たちがいるのか、最後まで見てもよくわからないままです。ストーリーも、中盤辺りまではアサシンが何らかの目的をもって地下世界を探索するという流れがありますが、後半からはそれも崩壊し、何が何やらな展開となっていきます。最後はビッグバンが起こって宇宙が再構成されるような、幻想的ともとれる結末を迎えることとなります。

そのため、どういうお話なのかを理解するのは非常に困難な作品ではあるかと思います。ですが、ぶっちゃけ何も理解する必要は無く、ただそのおどろおどろしい映像に身を任せていればよいのではないかと、僕はそう思いました。

 

地下の世界では、不快極まりない場面が満漢全席の如く次々とお出しされます。
拷問を受けて糞尿を垂れ流し続ける人がいたり、その排泄物からシットマンと呼ばれる労働者が大量生産されてはゴミ同然に潰されたり燃やされたり、ファンシーで可愛らしいキャラが出てきたと思ったら速攻食われたり、お腹を開かれて中身をぐちゃぐちゃにされたり、etc...
地獄絵図とはまさにこの事かと言わんばかりの映像の数々に、終始圧倒されます。

それはもう、フィル・ティペットの頭の中を覗き見るような、彼の見ている世界はこんなにもドス黒いものなのかと思わせるような…あぁもう僕の拙い語彙力では言い表せない。とにかくすごかったです(小並感)。

 

そうした地下世界が、僕らが暮らしている現実の世界とさほど変わらない、というのも皮肉が効いてるなぁと。

互いが互いを貪り合う、残酷で無秩序な世界。弱い者はどこまでも搾取され、使えなくなれば捨てられる、弱肉強食の世界。そんな世界は、現実にも確かに存在しています。フィル・ティペット監督は本作を通して、そうした世の中の“地下”に潜む暗部を浮き彫りにしている…のかもしれません。

 

ミニチュアとはとても思えない、壮大な世界観。実写でもアニメでも出せない、ストップモーションならではのリアリティと、非常にグロテスクながらどこか愛嬌のあるキャラクターたちが生き生きと動き回るさま。僕はグロは苦手な方ですが、ストップモーションは大好きということもあり、次から次へと押し寄せる凄まじい映像に興奮しっぱなしでした。それはもう、途中で何度か意識を失ってしまうほど。

…まぁ、単に寝てただけなんですけど。

いやね、セリフも無く、ひたすらに色んな景色を見ているだけだと、こちらも夢を見ているような感覚になると言いますか、トリップするような感覚になるんですよね。今見ているこの悪夢は自分のなのか、それともフィル・ティペットが想像し、創造したものなのか、なんだかよくわからなくなって気付いたら軽く意識をなくしてました(笑)

ストーリーなんてあってないようなものなので、見てない箇所があっても「あれ?これってどういうことだ?」みたいなのが一切無いという親切設計。というか、見てようが見てなかろうがどの道よくわからない、といった方が正確ですね。朦朧とした意識で見るほどこのトリップ感は増幅すると思うので、むしろこれこそが正しい見方なのでは、とすら思えてきます。だから寝たのも決して悪いことではないッ!(…と強引に自分を正当化してみる)

 

ちなみに、僕が本作を見ようと思ったのは、大好きな映画『JUNK HEAD』との類似点が多かったからでして。

地上の人類は絶滅寸前であることや、クリーチャー蔓延る地下世界を探索するというプロット、そして何よりストップモーションで制作されているということ。似ている点は非常に多いです。個人的な好みでいえば、どことなくポップで可愛らしい『JUNK HEAD』の方が好きかなぁ。でも気分によってどっちが好みかは変わってくると思います。それくらい甲乙つけがたい。

どちらかがパクった、という話をしているのではありません。こうした作家性の色濃い、監督自身の内面をさらけ出したような映画が短期間で複数公開されるというのは、ある意味“奇跡”だよなぁ、という話です。実際、お互い通づるところがあるのか、フィル・ティペット監督と『JUNK HEAD』の堀貴秀監督は対談もしています。

あ、そーいや余談ですが、この対談とか、場面写真の数々とかが載っているパンフレット、売り切れてて買えなかったのが残念。売り場にサンプルがあって目を通したら最高極まりなかったので、是非とも手元に置いておきたかった。公式通販でも売り切れてたので、現状買う方法が転売しかない…(でも奴らから買うのは死んでも御免)。増刷してくれたりしないかなぁ。

 

おわりに

これ以上語ることも無いので、この辺にしときます。
なんかすごく乱雑な文章になってしまったので、気が向いたら加筆修正するかも。

かなり人を選ぶと思うので、気軽におススメは出来ませんが、好きな人にはめちゃくちゃ刺さる作品だと思います。少しでも物語を理解したい、あの地下の暗黒世界にまた浸りたい。そうやって何度も何度も鑑賞することで味わいを増していく、スルメのような映画なのではないかと。3部作の構想もあるそうなので、もし実現したときには必ず見に行こうと思います。

ということで、映画『マッドゴッド』の感想でした。

ではまた。