映画『るろうに剣心 最終章 The Beginning』の感想になります。
ネタバレを含みますので、お読みになる際はご注意ください。
僕のるろうに剣心に対する思い入れなどに関しては『The Final』の記事をお読みください。
『The Beginning』は、原作における追憶編を映画化したものになります。追憶編とは何ぞやというと、人誅編の間に挟まれる形で描かれた、剣心の過去の話です。剣心は幕末に「緋村抜刀斎」という名の伝説の人斬りとして名を馳せており(ちなみにるろ剣は明治時代の話です)、トレードマークである左頬の十字傷がいかにしてつけられたのか、そしていかにして不殺(ころさず)の誓いを立てるのかを描いたお話です。ちなみに追憶編という名前はOVAで付けられたものらしいですね。名作らしいですが、恥ずかしながら未見です。
今と違いSNSもないし、僕も連載で読んでいたわけではないでのでわかりませんが、主人公が人を殺しまくるとか、主人公が実は結婚していた(バツイチ)とか、当時としても結構衝撃的な展開だったのではないでしょうか。少なくとも今のジャンプじゃ出来ないでしょうね。今やジャンプ漫画で連載を引き延ばすために過去話をやるのは常套手段な気がしますが、この追憶編に関しては、この話をすることで剣心というキャラクターの説得力というか深みが増していると思っているので、とても重要なお話になっている気がします。
気になる方はぜひ原作を読んでくださいということで、今回の『The Beginning』ですが、「シリーズ最高傑作、誕生。」というキャッチコピーに違わぬ作品になっていると感じました。どうしてシリーズ最後が追憶編なのかというのは、おそらく「最後」に「最初」の物語をあえてやるということなのでしょう(それ以外の理由が浮かばない…)。
とまぁそんなこんなで、感想を書いていきたいと思います。
※余談:最初、あらすじをなぞりながら感想を書いてましたが、気が付くとストーリー全部文字に起こす勢いで書いてて、長過ぎるしこんな辺鄙なブログでそんなことをする意味が分からんと思い、あらすじ部分は全削除しました…。
時は幕末の動乱のさなか。
剣心は長州派維新志士の桂小五郎のもと、緋村抜刀斎として主に要人の暗殺などを請け負っていました。鬼神のごときその強さから、幕府側からは最強の人斬りとして恐れられていました。
まず最初のシークエンス。(わざと)捕まった抜刀斎が、その場にいた幕府の人間たちを皆殺しにするシーン。原作にはないシーンですが、とても良かったです。何が良いって、血が飛び散りまくるところです。ここ以外でも抜刀斎が人を斬るシーンが何度か出てきますが、どれも血みどろ。R指定ではないのでさすがに腕や首が飛んだりはしないですが、凄惨さが表現されていて、今までのシリーズの"剣心"と今作の"抜刀斎"は違うぞ、ということがすぐに伝わりました。
それから、抜刀斎が頬に傷をつけられるシーン。清里を演じた窪田正孝がまた見事なキャスティングで、キャラに合っているだけでなく、演技がまた素晴らしかった。生きようと必死にもがく姿にグッときました。…まぁ生き延びたいなら勝ち目のない相手に何度も立ち向かうのではなく、死んだふりでもしてた方がよかったのでは…とちょっと思っちゃったけど。武士道精神に反する、ってことなんすかね。ともあれ、出番は少ないですが、存在感は抜群でした。
演出面で言うと、原作でも印象的に描かれていた「手を洗う」という行為。これはもちろん、人を斬る=手を汚すということで、それを必死に洗い流そうとしているということ。今作でも何度も出てきて、しかもどんどん絵的にも暗くなっていくところなんか、抜刀斎の心情をうまく表現していると思いました。
あとはもう、雪代巴を演じた有村架純がとにかく美しい…。無表情のようでどこか愁いを帯びた巴の雰囲気を見事に表現していましたね。文句なしに今作のMVPだと思います。
中盤。かの有名な「池田屋事件」が出てきます。歴史上の出来事と絡めてくるのは面白いですね。抜刀斎が池田屋事件に絡んでしまうと、新撰組に勝っちゃいそうだしリアリティラインが歪んでしまいそう、だけど裏の人間とはいえこれほど重要な出来事に絡まないのも違和感があるし…といった疑問点を、行きたくても行けなかったという描き方をしているのはなかなかうまいんじゃないかと思いました。あと、新撰組のキャスティングはどの人も大変良かったのですが、やはり沖田総司を演じた村上虹郎がとても良かったです。原作とは全く異なるビジュアルでしたが、非常にキャラに合っていると思ったし、演技も上手だし、アクションも頑張っていました。
後半。ついに巴の目的が明らかになります。彼女は清里の許嫁であり、大切な人を殺した抜刀斎への復讐のために近づいたものの、共に過ごすうちに抜刀斎のことも愛してしまう…とまぁ今時ありがちのような気もしますが、その辺は言いっこなしで(笑)だって原作は20年以上前の作品ですから…。
雪の中、闇乃武のもとへと向かう巴がまた美しいのなんのって。雪と一緒に消えてしまいそうな儚さを含んだその佇まいに、胸がギュッとなりました。
今回の敵である闇乃武のリーダー、辰巳は原作では結構なジジイなので、演じるのが北村一輝では若すぎる、とこのシリーズでは珍しくキャスティングに不満がありました。が、意外と違和感なくて良かったですね。「幕府の歴史は自分たちのような存在があってこそ成り立ってきた。だからこれからもそうする(害のある存在を排除する)ことがこの国の安泰の為なのだ」といった熱い信念のようなものがあったのもナイスな点。他の闇乃武の人達は完全にモブでしたが、原作でもそんな感じだったので不満は無し。
終盤。闇乃武たちの命を賭した"結界"によって、視覚や聴覚を奪われながらも、巴を救うために命を削りながら闘う抜刀斎。ここまで時代劇らしい非常に抑えた雰囲気で進んでいた今作ですが、最後の闘いではドカンドカンと派手なバトルが繰り広げられます。
ラスト、原作では「自分が辰巳を斃そうと飛び掛かるも、抜刀斎も同時に斬りかかって巴ごと斬ってしまう」といった感じ(あくまで僕の解釈)ですが、今作では「自分が辰巳を押さえてるところを自分ごと斬らせる」といった風に見えました。また、頬に傷がつくところも、原作では「斬られた際に離した小刀が頬に当たって傷がつく」のが、今作では「普通に巴が傷をつける」といった感じで、若干ニュアンスが変わっていました。傷に関しては、「巴が生きた証を残す」ということなんでしょうかね。漫画では違和感少ないけど実写にしたら確かにちょっと荒唐無稽に見えてしまいそうだし、よいアレンジだったと思います。ただ、原作では十字傷について、「強い"念"を込めてつけられた傷は消えない」と言われていたので、これじゃあ一生傷は消えないんじゃないかと思ってしまいました。
この辺の十字傷にまつわるアレコレも個人的に原作の大好きな部分でして。ちょっとだけ語らせていただくと、原作における強い"念"はつまるところ剣心自身の後悔の念であったり、償っていくためにはどうしたらよいのか答えが出ないことに対する自責の念だったりするわけで、その答えを見つけ出して巴へさよならを告げた後、そうした"念"が晴れていくのにあわせて傷が薄くなっていく流れがもう本当に好きすぎるのです。
またメンドクサイオタクが出てきてしまったのでこの辺にしときますが、そうした負の感情の象徴として描かれていた十字傷が、清里と巴が生きた証といった描き方をされていて、これはこれでとても素晴らしいなぁと思った次第です。(まぁ僕の勝手な解釈なので、違っているかもわからないですが)
そういえば白梅香のくだりはなかったですね。まぁ嗅覚は4DX専用とかでもない限り伝えるの難しいでしょうし、仕方ないかと。
こんなに素晴らしいシリーズを作ってくださって、原作ファンとしてはもう感謝しかないです。10年間、本当にありがとうございました。なんならオリジナルストーリーで他のキャラのスピンオフとかやってもいいのよ…?
ということで、映画『るろうに剣心 最終章 The Beginning』の感想でした。
ではまた。