映画『ラストマイル』の感想になります。
ネタバレを含みますので、お読みになる際はご注意ください。
複数の作品を同一の世界観で描き、時に作品間のクロスオーバーなんかもやっちゃったりする、シェアード・ユニバース作品。
マーベルコミックを原作としたマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)、DCコミックを原作としたDC・ユニバース(DCU)など、映画の本場ハリウッドでは既にいくつものユニバース作品群が作られています。日本でも、仮面ライダー・スーパー戦隊・ウルトラマン等の特撮ヒーローの分野ではゆるーい感じで頻繁にクロスオーバーやってますが、これらはユニバースとはちょっと違うかなーと。本格的なユニバース展開という意味では、日本はまだまだ未開拓でした。
そんな邦画界でも、遂にユニバースに果敢に挑戦する作品が出てきました。
それが本作、『ラストマイル』です。
TBS系列にて2018年に放送されたドラマ『アンナチュラル』、および2020年に放送されたドラマ『MIU404』と世界観を共有するシェアード・ユニバース・ムービーであり、ブラックフライデー直前より始まる連続爆破事件を描いた、サスペンス作品となっています。
ドラマの方でも現代社会に潜む様々な問題を取り扱ってきましたが、本作でもそれは健在。今回扱われるテーマは“物流”。どんどん便利になっていくネットショッピングの世界と、その裏で大変な思いをしている人たちの苦しみ、葛藤、そして悲劇が描かれています。
もくじ
かるーくドラマの感想
備忘録も兼ねて、ドラマ2作のざっくりした内容と僕の簡単な感想を書いていきたいと思います。
『アンナチュラル』
不自然死究明研究所(Unnatural Death Investigation Lavoratory)=UDIラボを舞台に、不自然死(アンナチュラル・デス)の原因を突き止めようと、主人公たちが奮闘する姿を描いたドラマ。ジャンルとしては「医療ミステリー」になるのかしら。
僕はいつ見たっけな…と思いインスタのアーカイブを漁ってみたら、2020年に見てたみたいです。第1話とか、コロナ禍のパンデミック前だというのに未知のウィルスの恐怖を描いていて、先見の明エグイなと思いました。あと印象に残っているのは第7話『殺人遊戯』で、生きることに絶望した少年に対し、励ましたり寄り添ったりはせず「死んだ人間は答えちゃくれない。許されるように生きろ」という中堂の言葉は、きっと自分とも重ねてるんだろうな…という思いもあってめっちゃ号泣したのを覚えています。これらのお話だけでなく、全編通して展開の筋道の組み立て(とLemonが流れるタイミング)が見事で、大ヒットも納得の出来栄えですわ、という感想。
『MIU404』
働き方改革の一環として刑事部の機動捜査隊に増設された、第4機動捜査隊=通称:4機捜の活躍を描いた刑事ドラマ。
ついこないだから見始めて、本作を見に行く直前に見終わりました。刑事ドラマに様々な社会問題を織り交ぜ、小さな事件がひとつに集約していく展開はホントすごい。ゴイゴイスー。特に外国人留学生の話は、犯人とほぼ同じような仕事を以前やっていたのもあって、他人事とは思えませんでした。あの話、何から何まで「ホントそう」なんですよ…。僕も下手すりゃああなってたかもしれない…と思うとゾッとします。最後の黒幕は現代社会の負の部分を凝縮したようなキャラで、バックボーンが一切語られなかったのもあって、超いい意味でただただ嫌悪感を覚えるヤツでした。なんというか、これだけ鋭く社会問題を切り取ったドラマが放送されてるのに、どうしてこの国はこうも変わらないんだろう…と見終わった後ちょっとおセンチな気分にもなったり。
概要
とまぁそんな感じで、舞台は本作へ。
シェアード・ユニバース・ムービーということで、ドラマにも出演していたキャストが多数出演しており、大変豪華な顔ぶれとなっています。今をときめく俳優たちのスケジュールを調整するのは大変だったでしょうが、その分ドラマを見ていた視聴者を呼び込む訴求力は抜群かと思います。本作をユニバース作品としたのには、きっとそういう狙いがあるのでしょう。
監督・塚原あゆ子、脚本・野木亜紀子、プロデューサー・新井順子をはじめ、主要なスタッフ陣は『アンナチュラル』『MIU404』と同じ。どうやら、このお三方がユニバース展開の仕掛人っぽいです。女子会のように「次こういうのやりたいね!」とキャッキャウフフしながら作り上げたようなので、さぞ楽しかったことと思います。知らんけど。
ちなみに以下の感想でも言及してますが、野木さんは僕がいま最も好きな脚本家さんといっても過言ではないお方。この人が脚本書いてたらそれだけで見に行く価値がある(断言)。
主演を務めるのは、『愛のむきだし』以降、数多くのドラマ・映画に出演し続けている満島ひかりと、『重力ピエロ』や『ドライブ・マイ・カー』などで数々の賞を受賞している岡田将生。ほか、本作からのキャストとして、ディーン・フジオカ、阿部サダヲ、火野正平などが出演しています。
『アンナチュラル』からは、石原さとみ、井浦新、市川実日子、松重豊らその他諸々が出演。
また『MIU404』からも、星野源、綾野剛、橋本じゅん、麻生久美子らその他諸々が出演しています。
予告編
あらすじ
ブラックフライデーを間近に控えた、11月。
宅配便の荷物が次々と爆発する連続爆破事件が発生し、重軽傷者や死者まで出るほどの大事件に。
爆発した荷物の共通点は、世界最大のショッピングサイトであるDAIRY FASTの西武蔵野ロジスティクスセンターより発送されたもの、という点。ここは関東全域の物流の拠点となっていただけに、配送に遅れが生じるなど、その影響は大きくなるばかり。
新しくやってきたセンター長、舟渡エレナ(演:満島ひかり)は、チームマネージャーの梨本孔(演:岡田将生)と共に対応に追われます。しかし調査を進める中で、警察に通報を渋る様子や重要な情報を削除するなど、エレナの行動に孔は疑念を持ち始め…。
一体犯人は誰で、どうやって爆弾を荷物に仕掛けたのか。そしてその目的は。
そこには、誰もが享受している利便性の裏側に隠された闇と、その犠牲となった人間の悲しい真実が隠されているのでした――。
というのがあらすじ。
本編感想
まずはやらかしを語らせてください
感想の前に、また馬鹿をやってしまったので、ちょっと語らせてください。
見に行くとき、上映開始時間を3分ほど遅れてしまったんです。でもま、これくらいならまだ予告編とかやってる頃だし余裕っしょ、などと思ってシアターに入ったら、既に本編が始まっているではありませんか。あれおかしいなと嫌な予感がしつつも、とにかく早くしなきゃと慌てて席について見始めたんです。で、しばらく見た後に、あれ?なんか知らんキャラがしれっといるな…ってなんか物語がクライマックスに向かってる感じするぞと思い、これはまさかシアター間違えたか…?と気付きました。そう、僕が入ったのは予約したところとは異なる、1時間くらい前から始まったシアターだったのです(デデーン)。
もうちょいで終わりそうな雰囲気の中で今更席立つのもアレなので、もういいやと諦めて最後まで見続けました。おかげで後半~ラストまでしか見れず。
これ、『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』の時にも全く同じことやってんですよ2回目ですよ何やってんだよコンチクショー。
このときもそうだったんですが、よりにもよって間違った先でも同じ作品が上映されてて、更に僕が予約した席がちょうど空いてるという謎の奇跡によって、気付くのが遅くなったというオチ。こんな奇跡、二度もいらないって…。
もう絶対やるまいと思ってたのに、まさかまたやらかすなんて…自己嫌悪の極み。
ていうかさ!これは完全にただの愚痴なんですけど!
↓この表示、めっちゃ間違いやすくないですか!?
僕が予約したのは7番シアターで、場所は写真右の通路の一番奥なんです。スマホで見ていただいてる人は小さくて見えないかもですが、しんちゃんが言ってるように通路の先にはトイレがあって、そのさらに先に7番シアターがあるんです。結構先です。でもこの表示だと、まるで9番が7番のように錯覚しちゃいませんか?しかも、角度によっては9番シアターの表示が隠れるので、それで僕は7番だと思って9番に入っちゃったんです。
せめて7番の表示の下に「→」つけるとか、9番が隠れないように壁に書くとかして欲しい…。このままじゃ絶対僕と同じ過ちを犯す人がいる…と思いたい…いや、僕が愚かなだけなのかなぁ…。そもそも遅れんなよって話ですし……。(急に自信を無くすコミュ障)
はい!これ以上長くなってもアレなのでこの話もう終わり!
改めて感想
というわけで、後日もう一度鑑賞してきました。
ちゃんと全編通して見た率直な感想としては、本当に完成度の高い作品だなと。
どうやらかなり大ヒットしているようですが、それはシェアード・ユニバースってだけでなく、ひとつの作品として抜群に面白いからだと思います。
僕がこの作品をスゴイと思った点は主に以下の3つ。
- シェアード・ユニバース作品としてスゴイ
上述の通り、本作には『アンナチュラル』『MIU404』の主要キャストが軒並み出演しています。4機捜の面々はドラマ同様初動捜査で走り回り、様々な手掛かりを見つけ出します。UDIラボの面々は届かない配達に右往左往したり、犠牲者の解剖を行い、とある重要な事実を突き止めたりします。キャラ同士の掛け合いはドラマの時の雰囲気そのままですし、キャラの魅力は全く損なわれてはいませんでした。最初に出てくるときにドラマの音楽が流れるのとか、「うわーっ、この曲は!」ってなって鳥肌ブワーでしたわ。
しかし、自分たちの見せ場はしっかりと用意しつつ、今回の主役であるエレナや孔を食ったりは決してしない、絶妙なバランス。アベンジャーズはクロスオーバーそのものが見せ所であり、全員主役!って感じでしたが、本作は新たに主役がいて、その人達のドラマの中に別作品のキャラが入ってくる形式。どちらが良いというわけではないですが、後者のタイプのユニバース作品としては、本作は理想的な作りになっていると思いました。 - 社会派ドラマとしてスゴイ
本作では、物流業界に携わる人たちの姿が、非常にリアルに描かれています。働いていた会社が倒産して配達員にならざるを得なかった人や、不景気によって大手ネットショップの言いなりにならざるを得ない配送業者、物流が滞ったときに日常生活どころか医療さえもままならなくなるほどに依存してしまっているさまなど、今の社会に生じた歪みのようなものを浮き彫りにしています。
僕らが享受している便利さのしわ寄せが、配送業者や配達員の人たちに確実に来ている、この現実。そして、それを見なかったことにして傍観していること、それこそが問題なのだと、本作は訴えています。これは、僕らが生きているこの世界に確実に存在している問題です。何か出来ることは無いのかと、今後も考え続ける必要があると思いました。とりあえず、届いた荷物の端っこがちょっと潰れてたりするだけで憤慨する人は、本作を見て彼らの苦労を少しでも知って欲しい。 - とにかく脚本がスゴイ
結局のところ上2つもコレに帰結するんですが、本当に脚本が素晴らしい。各キャラの一挙手一投足に、無駄が全くないんです。全てのセリフに明確な意味があるうえに、序盤にサラッと言ったセリフが、後半~終盤にかけてどんどん意味を持ってくる。見ていて大変気持ちが良かったです。「頑丈さがウリの洗濯機」とかね、まさかでしたよホント。
ほかにも、孔という観客と同じ目線で物事を見るキャラを用意することで没入感を高めているところとか、主人公であるエレナに疑いの目を向けさせるところとか、褒めるべきところは無限に等しいほどにあるんですけども。
僕が個人的に最も感心したのは、本作においてとてつもなく重要な意味を持つ「2.7m/s→70kg→0」のキーワードが、映画のファーストカットからドアップで出てくること。上で愚痴った通り僕は1回目は途中から鑑賞し、2回目は最初から鑑賞したのですが、おかげで2回目は初っ端から驚かされました。孔は最初、意味を分かってないのでボーっと見ているだけなのがまた上手い。観客の関心を逸らす効果があると思いますし、何よりラストでその意味を知った孔が、その重みに圧し潰されそうになるシーンとの対比になっているんですよね。お見事過ぎて、思い出すたびにゾクッとします。センター長を引き継ぐことになった孔にエレナがかける「好きにすればいいんじゃない?」という言葉も、要は「あなた(=観客)はどうする?」というメッセージになっていて、なんとも考えさせられます。
そのほか、道路や街並み、西武蔵野LCの外観を空撮でドーンと映しているシーンはいかにも映画って感じで良かったとか、センター内のシステマティックかつ壮大な景色も映画映えするなーとか、ベルトコンベアのガシャン!ガシャン!て音が印象的に使われてて頭から離れなくなるとか、『MIU』で虚偽通報してた少年が陣馬さんの相棒になっててウルっときたとか、いろいろありますが、こんなもんにしときます。
あ、もうひとつだけ。
主題歌の『がらくた』が良すぎる。
恐らく山崎と筧のことを歌った曲なんだと思いますが、作品への理解が深すぎて悔しさすら覚えます。なんで悔しいかって、僕はあまり米津のことを好きにならないようにしてたからです。なんでかって、米津=ハチをはじめとする、初音ミクの楽曲を制作している有名な人をP(プロデューサー?)とか呼んでオタク共が内輪でわいのわいのやってるのに嫌悪感を覚えるから…という至極個人的身勝手な理由です。
あんまり書くとアンチコメントが飛んできそうなので詳しくは書きませんが(既に手遅れかもしれない)、最近は米津は素直に好きでよく聴いてますし、『がらくた』はめっちゃヘビロテしてます。山崎や筧だけでなく、エレナや五十嵐、色んな人のことを歌っているような気がして、聴くたびに映画の場面がよみがえってきて涙が出てきます。
おわりに
はい、今度こそ以上です。
毎度ながら、大好きな作品ほど上手いこと感想を書けなくてモヤモヤします。あと5年くらいブログ続けてれば、少しはマシな感想書けるようになるかなぁ。それまで続くかな…。
ドラマを見ていない人も全く問題ありません。大ヒットも納得の素晴らしい作品だと思いますので、気になっている人はぜひ映画館へ足を運んでみてください。あわよくば、本作を見て何かを考えるきっかけになってくれたらと願っています。
ということで、映画『ラストマイル』の感想でした。
ではまた。