GORGOM NO SHIWAZAKA

ゴルゴムのしわざか!

映画『サブスタンス』感想(ネタバレ)

映画『サブスタンス』の感想になります。
ネタバレを含みますので、お読みになる際はご注意ください。

「あの頃に戻りたい」

「私も昔は若くてピチピチ(死語)でキレイだったのに」

年齢を重ねてくると、誰しもがそんな風に考えるものですよね。健康診断で毎回何かしら引っかかるたびに、僕もそんなことを考えてしまいます。

 

そんな「全盛期の自分」を、もう一度取り戻せるとしたら…?

本作サブスタンスは、そうした願望に憑りつかれた女性の姿が、非常に生々しくグロテスクに描かれた、ホラー作品です。

 

もくじ

 

概要

加齢により落ち目となったひとりの女優が、“美”に妄執するさまを描いた本作。

身体が得体の知れないものに変容していく“ボディホラー”というジャンルは、現在ヨーロッパを中心にトレンドになっているらしいです。知らんけど。そうしたトレンドの最先端ともいえる本作は、カンヌ国際映画祭脚本賞ゴールデングローブ賞主演女優賞、アカデミー賞メイクアップ&スタイリング賞といった、数々の映画賞を獲得しています。

 

監督・脚本は、2017年の『REVENGE リベンジ』で注目を集めたフランス出身の女性監督、コラリー・ファルジャ

キャストは、『ゴースト/ニューヨークの幻』で一躍スターとなった名優デミ・ムーア、ネトフリ版『デスノート』への出演やドラマ『メイドの手帖』の主演などで知られる新進気鋭の俳優マーガレット・クアリー、『僕のワンダフル・ライフ』など様々な映画に出演しているデニス・クエイドなど。

 

なお、本作はR指定作品(R15+)であり、キツめのグロ描写がありますので、苦手な方は覚悟のうえでご鑑賞ください。

後述しますが、僕は痛い目見ました…。

 

予告編


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あらすじ

元トップ女優、エリザベス・スパークル(演:デミ・ムーア)。

かつてはオスカーなど数々の賞を獲得してきた彼女も寄る年波には勝てず、長年レギュラーを務めてきたフィットネス番組を降板になるなど、落ち目を迎えていました。

そんなある日、「より若く、美しく、完璧なもうひとりの自分を作り出す」という薬物、“サブスタンス”の存在を知ったエリザベスは、藁にも縋る思いでそれを注文。指示通りに活性剤を注射するとみるみるうちに細胞分裂が始まり、もうひとりの自分、スー(演:マーガレット・クアリー)が誕生します。

完璧な美貌とエリザベスの培ってきた経験を併せ持つスーは、瞬く間にスターダムを駆け上がっていきます。かつての栄光を取り戻した彼女は、年老いた自分に戻りたくないと、次第に用法・用量を守らない使い方を始め――。

というのがあらすじ。

 

感想

いろんな意味で、やられました。

 

感想の前に、ひとつ小噺をば。

鑑賞前に時間があったので、喫茶店でコーヒーを飲んでから映画館へ向かったんです。いつも直前にトイレに行って万全の態勢を整えており、今回も例に漏れずしっかりトイレで出すもの出してやれ爽快な状態でシアターに入った…

はずだったんですけども。

HOT LIMIT (feat. Heartsdales)

HOT LIMIT (feat. Heartsdales)

  • provided courtesy of iTunes

コーヒーの利尿作用のせいか、本編開始前の予告編の時点でちょっと怪しくなってきまして。

おかしい…ついさっきしたばっかなのに…。念のためもう一回行っといたほうがいいか…?いや、これくらいであれば最後までもつだろう。経験上、映画に没頭してれば意識しなくなるはず。

 

そんな風に考えていた時期が、僕にもありました。

うん、ダメでした。

中盤くらいからは、「今のうちに行っとかないとヤバいかも…」と「でも少しでも見逃すと後悔しそうだし…」のせめぎ合い。それでもどうにか耐えていたんですが、終盤はもう、展開のあまりのおどろおどろしさと襲い来る激しい尿意が合わさって、吐きそうになってきてしまいまして。このままでは上から下から色々出てしまう危険があったので、生まれて初めて、途中リタイアをしてしまいました。ちょうど「2回目を打った」あたりです。

 

ぐぬぬ…悔しい……なんたる不覚…。

アバター』でも『エンドゲーム』でもこんなことにはならなかったのに…。※どちらも約3時間

次に見に行くであろう『ミッション:インポッシブル』も3時間くらいあるみたいだけど、大丈夫かな…。

 

いやー、カフェインの力を甘く見ちゃダメですね。でも家だとデカフェ(カフェインを除去したヤツ)を飲んでるんですが、それでもトイレ近くなるんだよなぁ。刷り込み的なもんなんですかね。

↓ちなみに今飲んでるのはコレ。イマイチなのでリピートはしないと思う。

ということで、「ちょっとでも怪しいと感じたら本編始まる前にトイレ行っといた方がいいよ」という、実にくだらないお話でした。

 

余談はさておき、改めて映画の感想をば。

 

結局、後日もう一度見に行きまして。

僕はグロとかホラーとか苦手な方で、『SAW』シリーズとか、見たいけど怖くて尻込みしてる作品が結構あったりします。本作もまさにそういう映画なんですが、「もうこれ以上見たくない…」とはならず、不思議と「最後までちゃんと見たい!」という気になったんですよね。バチバチにキマッた映像や中毒性のある音楽など、引き込まれる要素が多かったからだと思います。

2回見たので、ウチには活性剤が2つあります。これで僕もモンストロに…

鑑賞前に念入りに絞り出したおかげで、2回目は最後まで作品に集中することが出来ました。リベンジ成功やったぜ。

また、フィットネス番組のシーンでは、良くも悪くも昔ながらの淡々とした感じだったエリザベスに対し(スーと比較してものすごく貧相に見える、という意味での良い)、スーのは映像や音楽が今風で華やかになっているだけでなく、横にいる人たちの年齢層も下がっているほか、女性だけでなく男性(半裸)も加わっている、といった、2回目で気付く新しい発見があったのも良かったです。

↓多分劇中で使われてる楽曲。脳が溶けるほどの中毒性。

Pump It Up (Mixed)

Pump It Up (Mixed)

  • Endor
  • ハウス
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  • provided courtesy of iTunes

 

「性的搾取」「男社会」「ルッキズムやエイジズム」といった、今でも根付いている社会問題を過剰なまでに強調して描くことで、痛烈に皮肉っている本作。

スマホとか出てるし時代設定は現代なのでしょうが、なんか価値観がすごく前時代的だと思いました。プロデューサーの男の言動とか、今なら即刻セクハラパワハラで訴えられるでしょうし、そもそも「人気者になりたい!」から「エアロビ番組に出たい!」とは今の時代誰も考えないんじゃないですかね。知らんけど。

敢えて古臭い価値観の残るファンタジーハリウッド的な世界にすることで、上記のような社会問題をどストレートに描いても違和感を感じにくくしてる、とかなのかな。だとすれば、少なくとも僕にとっては効果抜群でした。僕はスムーズに世界観に入り込めたので。

 

エリザベスが“若さ”や“美しさ”に固執するのは、そうした環境やプロデューサーをはじめとした周りの人間のせい、というのは大いにあると思います。

だって、エリザベスは50歳としては相当キレイじゃないですか。薬に頼る必要なんてこれっぽっちもないはずなんです。ついでに言うと、演じるデミ・ムーアは還暦超えてるんですね。それであの美貌は、ちょっと到底信じられないレベル。それでも彼女を突き動かしたのは、ルッキズムやエイジズムに支配された芸能界、そして彼女自身の承認欲求のせいなんでしょう。

エリザベスが常に着ている黄色いコート。あれも、ゆったりめのサイズ感で体型を誤魔化したい、今の自分を覆い隠したいという思いと、派手目な色合いからはそれでも少しでも目立ちたいという虚栄心が現れていると思いました。

 

そうした彼女の願望を完璧に叶えてくれる薬、“サブスタンス”。

てっきり「若返る」薬なのかと思っていましたが、蓋を開けてみれば「完全上位互換の分身を生み出す」薬だったのには驚きました。でもこうすることで、“産まれる”際の気持ち悪さも表現出来ますし、エリザベス側に何のメリットもなく、ただただ搾取されていくだけという哀れさも描けるので、なんとも上手いなーと思いました。

「1週間ごとに体を入れ替えなければならない」「活性剤は絶対に2回使ってはいけない」といったルール付けも、エリザベスに戻った際のみじめさや、ダメなのは理解しつつも美しさのためなら後先考えずに破っちゃうという、堕ちていく様を描くのに一役買っていて面白かったです。

 

そーいや、エリザベスとスーは意識は共有しているようだけど、記憶は共有してないんですかね。お互いが何をして何を言ったのか、覚えてないっぽい描き方をされてましたけども。僕はなんとなく、実際は記憶も共有してるはずなんだけど、肉体や周りの反応に引っ張られて、別人と思い込んでしまってるんじゃないか、と思ってみたり。だから薬の売人は「どちらもあなた自身だ」というのを繰り返してたのかなと。

というか、売人は「ルール破るだろうな」って分かったうえで薬を提供してますよね絶対。活性剤とか、1回分だけ処方すればいいものを、わざわざそれ以上の量を最初に提供してますし。入れ替えルールも、効率的に顧客の精神を壊すために、敢えてそういう作りにしてるんじゃないかと思えてきます。薬の効能と併せて、「精神的に追い詰められた人間がどういう行動を取るのか」も見ているみたいな、何かしらの人体実験なのかも。そういう意味では、エリザベス/スーの行動は売人の思惑通りの結果だったのかもしれませんね。まったく憎たらしいぜ本当にありがとうございます。

 

何度か、“エリザベス”としての精神のバランスを取り戻せるチャンスを与えてるのも良いですよね。でも結局そのチャンスも逃してしまう、というのがまた物悲しくてとても良かったです。

特にかつてのクラスメイト、フレッドとの食事の約束を反故にしてしまうところ。何度も衣装を整え、化粧を直し、出発しようとするも、若く美しいスーと今の自分を対比してしまい、結局外へ出ることが出来ず…というあの場面は、デミ・ムーアの迫真の演技と相まってこの映画の一番の見所なんじゃないかと思います。

きっとあそこで彼と会えていたら、「今(50歳)の自分も悪くないんじゃないか」と考えることができ、心のバランスを保つことが出来たんじゃないか。そう思うと本当に悲しい。でも映画としては行かない方が間違いなく面白くなるのがまたなんとも。

てか、フレッドはこの作品の登場人物の中で唯一と言っていい、まともな人間ですよね。泥水に落としたビチャビチャの紙を渡すのはどうかと思いましたけど。お隣さんとか、清々しいほどのどクズで笑えました。初対面の人に「デカい“ハンマー”持ってるぜ」とかよく言えるな(笑)

 

ラストに関してはここでは詳しく書きませんが、凄まじかったですね…。

堕ちるところまで堕ちた者の成れの果て。その結末もまたド派手で、最悪なものでした(褒めてます)。中には子役の子もいましたが、あれ撮影とはいえトラウマにならないかしら…。

 

おわりに

そんな感じで、以上になります。

「ホラー苦手な僕でも面白いと思えた」とか、「途中退席してまた戻るのは意気地なしの僕には出来なかった」とか、「やっぱり薬はダメ!ゼッタイ」とか、いろんな経験をさせてもらえる作品でした。

かなり人を選ぶとは思いますが、アイロニックな作品が好きな方、ボディホラーというジャンルが好きな方は、とても楽しい鑑賞体験になると思います。

ということで、映画『サブスタンス』の感想でした。

ではまた。