映画『きみの色』の感想になります。
ネタバレを含みますので、お読みになる際はご注意ください。
『けいおん!』シリーズで社会現象を巻き起こすほどの大ヒットを生み出した山田尚子監督の最新作、それが本作、『きみの色』です。
3人の男女がバンド活動を通して成長していく、青春物語となっています。
もくじ
概要
監督・山田尚子、脚本・吉田玲子、音楽・牛尾憲輔という座組は、2016年の映画『聲の形』、2018年の映画『リズと青い鳥』、2021年のTVアニメ『平家物語』と同じであり、盤石の体制といえます。僕はこの中では『聲の形』しか見てませんが、全身をギュウギュウに締め付けられるような感覚になって、大号泣したのを覚えています。ほかのも見たいけど、まずは『ユーフォニアム』を見なきゃかなぁ…。
山田監督は元々京都アニメーションのアニメーター出身のお方ですが、現在はサイエンスSARUに所属しており、本作のアニメ制作もサイエンスSARUが手掛けています。
キャストは、大河ドラマ『どうする家康』などに出演している鈴川紗由、『ベイビーわるきゅーれ』シリーズで知られる髙石あかり、現在放送中の月9ドラマ『海のはじまり』に出演している木戸大聖らが、メインキャラクターの声を担当。
また、悠木碧、寿美菜子、戸田恵子、井上喜久子といった豪華声優陣や、人気絶頂のお笑い芸人やす子、ガッキーこと新垣結衣といった方々が脇を固めています。
予告編
あらすじ
キリスト教系の女子高校に通う日暮トツ子(声:鈴川紗由)は、人の姿や性格が“色”となって見える、特殊な感覚を持っていました。しかしどういうわけか、自分自身の“色”だけは見えません。
トツ子は、とてもきれいな“色”が見える同級生、作永きみ(声:髙石あかり)に密かに憧れを持っていました。聖歌隊のメンバーとしても活動し、周りの生徒からも慕われていたきみですが、ある日突然、学校を辞めてしまい、行方知れずに。きみに会いたいトツ子は町中を探し回り、「しろねこ堂」という古本屋でアルバイトをしながらギターの練習をしているきみを発見。
勇気を出してきみに話しかけるトツ子。そこへ、影平ルイ(声:木戸大聖)という少年も、2人をバンドのメンバーだと思って話しかけてきました。トツ子は勢いでルイに「私たちのバンドに入りませんか?」と言ってしまい、成り行きでバンドを組むことに――。
というのがあらすじ。
本編感想
頼む。みんな見てくれ。
そう思ってしまうほどに、とても良い映画でした。
宇多田ヒカルの楽曲に、『COLORS』という曲があります。
宇多田ヒカルは「“音”を“色”として認識できる」と言われており、その感性が色濃く出ているこの曲は僕も大好きだったりします。よく言われる、「黄色い声援」とかもそれですね。ほかにも、「言葉に味を感じる」「音や匂いに形を感じる」など、こうした「通常の感覚のほかに、別の感覚でも知覚することが出来る」知覚現象のことを、共感覚(シナスタジア)というそうです。
本作におけるトツ子の「人の姿や性格が“色”になって見える」というのもまさに共感覚であり、僕が本作にたまらなく心惹かれたのもまさにここ。共感覚は時に神経の異常と捉えられることもあるそうですが、僕はこの感覚、すごい素敵だなぁと思っていて。ただでさえ色彩溢れるこの世界が、さらに拡張されるのっていいなぁと。人や音から発せられる“色”を感じることによって、自身の気持ちも華やかになったりするんでしょうか。きっと、逆に色がくすんで見えてしまったりと、共感覚の持ち主からしたらきっといいことばかりではないんだとは思いますが、言い換えれば優れた感性を持っているってことだと思うし、ちょっとうらやましいなぁと思ってしまうわけです。
(この感覚を持っていることでしんどい思いをされている方がいらっしゃったら大変申し訳ありません。)
「女子高生がバンド組んでなんかやる」系のアニメって普段はあまり見ないジャンルなんですが、本作を見るに至ったのはこうした理由があったのでした。
という、どうでもよいお話。
「女子高生がバンド組んでなんかやる」系のアニメ、今でもよく作られていますよね。僕はコレ系のヤツ、あまり面白味を感じられなくてこれまで全く触れてきませんでした。マクロスみたいな「歌が世界を救う」みたいなのならまだわかるんですけども(と言いつつマクロスも全然見てない)、ただ部活やるだけの作品にあまり魅力を感じられなくて。同じ理由で、日常淡々系の作品もあまり読んだり見たりしないです。
でも本作を見て、こういうのにハマる人の気持ちが少しわかった気がしました。等身大の少年少女たちが、それぞれ抱える様々な問題に対し、「みんなでひとつの目標に向かって協力して頑張る」ことで、折り合いを付けたり、一歩進んだりする。青春の在るべき形とはまさにこういうものなんだろうと思わせてくれる、非常に共感度の高いテンプレだと思いました。言い方は悪いですが、こういうのとは無縁な学生生活を送ってきた僕のような人間には、特に強い憧れと共に心に刺さってくるんだろうなと。
本作のメインキャラクター3人の抱えているものも、誰しもが一度は思ったことがあるようなものなのがまた良い。
きみちゃんは、周りからの羨望や期待に押しつぶされそうになり、さらにそこから逃げ出してしまったことを家族に話せないでいる。ルイくんは、音楽をやりたい気持ちと、女手ひとつで育ててくれた母の期待に応えたい気持ちの狭間で揺れ動いている。そしてトツ子は、自分の色だけ見えない=自分が何者なのかわからないという思いを抱えている。
どんな人にでも、同じような悩みを抱えた経験があるのではないでしょうか。そうした心の機微を本作では丁寧に描いているので、まるで自分が登場人物になったかのような没入感を感じることが出来ました。
水彩画のような淡く鮮やかな色彩をはじめとした美しい映像は、言わずもがなの素晴らしさ。僕が本作を気になった一番最初の理由はこの映像美だったんですが、期待通りの美しさでした。
あとは、とにかく劇中で演奏される曲がめちゃくちゃ良い。特に『水金地火木土天アーメン』は未だに気付くと頭から離れなくなる中毒性があります。きみちゃん役の髙石あかりちゃん、こんなにきれいな歌声持ってたのね。素晴らしい。
あとルイくんが演奏する楽器にテルミンがありますが、僕はこれまでテルミンってなんというか、とぼけたというか間の抜けた音を出す楽器だというイメージがありました。でも本作を見て、ふんわりと優しい音を出せる楽器なんだという新たな発見があり、すごく良かったです。
あとあと、ミスチル好きとしては主題歌も大変好み。
おわりに
短いですが、こんな感じでございます。
特にライブシーンに関しては、ぜひとも映画館の音響で味わっていただきたい。感情がブワーっと溢れてきて、言いようのない感動を味わえると思います。僕は公開直後の土日で見てきたのですが、思ったより人が少ない印象だったので、もっともっと多くの人にこの作品が届くことを願っております。
ということで、映画『きみの色』の感想でした。
ではまた。