映画『アントマン&ワスプ:クアントマニア』の感想になります。
ネタバレを含みますので、お読みになる際はご注意ください。
マーベルコミックを原作とした複数の実写映画を同一の世界観で描くクロスオーバー作品群、それが『マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)』。
本作は、マーベルコミックに登場するヒーロー、アントマンとワスプを主役とした映画であり、2015年公開の『アントマン』、2018年公開の『アントマン&ワスプ』に続く、第3作目となります。また、本作はMCUのフェーズ5の第1作目となり、新たな戦いの幕開けを告げる、記念すべき作品となっています。
アントマンのシリーズはMCUの中では比較的地味な印象ですが、なかなか個性的な存在感があると思っていて、個人的にかなり好きなシリーズ。終始明るめのテイストで気軽に見れますし、他の作品との繋がりも割と緩めなので、MCU入門編としてもオススメです。
もくじ
アントマン、そしてワスプとは
アントマンは、天才科学者ハンク・ピムが発見・開発したピム粒子を利用して、体のサイズを自在に変化させる能力を持ったヒーローです。蟻と同程度の1.5cmほどの大きさまで体を小さく出来る(本当はもっと小さくなれるけど危険なのでやらない)ことから、「蟻男=アントマン」と呼ばれています。
原作では、1962年に刊行されたコミックにて初登場。
ピム粒子の開発者であるハンク・ピムのほか、様々な人物がアントマンとして活躍していますが、MCUでは2代目アントマンである、スコット・ラングの活躍が主に描かれています。
ワスプもアントマンと同様、ピム粒子によって体のサイズを自在に変化させる能力を持ち、更にスーツに装着された羽による飛行能力や、手首に装備されたブラスターによる射撃能力などを有しているヒーローです。アントマンが蟻なのに対し、ワスプは蜂の名を冠しています。
原作では、1963年に刊行されたコミックにて、アントマンのパートナーとして初登場しました。
MCUでは、原作でワスプとして活躍したジャネット・ヴァン・ダインに代わり、娘のホープ・ヴァン・ダインが2代目ワスプとして登場しています。
これまでの変遷
MCUにおける彼らの活躍を簡単に振り返っていきます。
- 『アントマン』2015年
バツイチの元泥棒、スコット・ラングは、足を洗う決意をしたもののなかなか再就職が決まらず、再び犯罪の道へ走ってしまいます。盗みに入った豪邸にてアントマンのスーツを発見し、家主であるハンク・ピム博士にアントマンになって欲しいと告げられるスコット。初めは気乗りしなかったものの、娘に誇れる自分になるために、2代目アントマンとして、ハンクの元助手でピム粒子を軍事利用しようとするダレン・クロス/イエロージャケットの野望を食い止めるのでした。 - 『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』2016年
トニー・スターク/アイアンマンの陣営と、スティーブ・ロジャース/キャプテン・アメリカの陣営とに分かれ、アベンジャーズ同士の対決が繰り広げられました。スコットは、以前サム・ウィルソン/ファルコンと戦闘したことがきっかけでスカウトされ、キャップ陣営のひとりとして戦います。この作品で、これまでとは反対に体を巨大化させる、ジャイアントマンの能力を初めて披露しました。 - 『アントマン&ワスプ』2018年
28年前に量子世界へ行ったまま行方不明となっている初代ワスプ、ジャネット・ヴァン・ダインを取り戻すため、研究に没頭するハンクとその娘、ホープ・ヴァン・ダイン。前作ではスーツのみの登場だった2代目ワスプですが、この作品から本格的に活躍します。『シビル・ウォー』の件でFBIの監視下に置かれているスコットも、監視の目を逃れながら協力することに。量子の研究を狙うエイヴァ・スター/ゴーストとの戦いなどがありつつも、最終的にジャネットを量子世界から連れ帰ることに成功します。ラストでは、エネルギー採取のために量子世界を訪れたスコットを残して、ハンク、ジャネット、ホープがデシメーションによって消滅してしまい、スコットは量子世界に取り残されてしまいます。 - 『アベンジャーズ/エンドゲーム』2019年
偶然にも量子世界からの帰還を果たしたスコットは、量子の世界は時間の概念を超越していることに気付き、アベンジャーズに量子力学を用いたタイム・トラベルの可能性を提案。ブルース・バナー/スマート・ハルクが装置を開発し、“タイム泥棒作戦”を決行。インフィニティ・ストーンを様々な時代から回収して、失った人々を取り戻すことに成功します。最後は復活したワスプも駆け付け、サノスとの最終決戦に勝利するのでした。 - 『ロキ』2021年
アントマンは出てきませんが、非常に関わりの深い作品なので紹介させていただきます。
これまでMCUで描かれてきた時系列を神聖時間軸と定義し、マルチバースを監視し時系列の分岐が発生しないよう管理する、TVAという組織が登場しました。
最終話では、TVAを創設した“在り続ける者”が登場。彼の死をきっかけに、無数のマルチバースが解放されることとなります。
本作概要
そうして、話は本作へと繋がっていきます。
これまでのアントマン単独作は、『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』の直後や、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』と『エンドゲーム』の間といった、大作の後の箸休め的な立ち位置でした。それゆえか、どこか軽いノリを生み出していて、僕はすごく好きなんですけども。
しかし本作は、今後のアベンジャーズに向けた非常に重要な立ち位置となっており、マーベルファンであれば必見の作品となっているのが特徴。そのため、これまでよりも少々シリアス強めになってはいるものの、コメディチックな明るいテイストはしっかり保たれているので、MCUに触れたことが無い人でも楽しめる作品になっているのではないかと思います。
監督は、前2作に引き続き、ペイトン・リードが務めています。
数々のテレビドラマのほか、2009年公開のジム・キャリー主演の映画『イエスマン “YES”は人生のパスワード』なども監督しています。
脚本を書いているのは、ジェフ・ラブネス。
2025年公開予定の新たなアベンジャーズ、『Avengers: The Kang Dynasty(原題)』の脚本も執筆しているんだとか。
主演も前2作と同様、ポール・ラッド。
ブロードウェイ、テレビドラマ、コメディ映画など、活躍は多岐にわたる実力派の俳優です。
アントマンのパートナーであるワスプ役を務めるのは、エヴァンジェリン・リリー。
ワスプ以外だと、『ホビット』シリーズのタウリエルというエルフの役の印象が強いです。
次世代のヒーローともいえる、アントマンの最愛の娘を演じるのは、キャスリン・ニュートン。
前2作ではアビー・ライダー・フォートソンというめちゃくちゃ可愛い子役が、『エンドゲーム』では成長した姿をエマ・ファーマンが演じていましたが、本作で再びキャストが変更されています。
本作のヴィラン(敵役)、そして今後のMCUにおいて非常に重要なキャラを演じるのが、ジョナサン・メジャース。
『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』への出演で注目され、『ロッキー』シリーズのスピンオフ、『クリード』最新作にも出演しているなど、活躍が期待されている俳優です。
そのほか、ミシェル・ファイファーやマイケル・ダグラスなどの豪華キャストも引き続き出演しておりますが、詳細は割愛。
予告編
あらすじ
強敵、サノスとの戦いに勝利したアベンジャーズ。
そのメンバーとして戦ったスコット・ラング/アントマン(演:ポール・ラッド)とホープ・ヴァン・ダイン/ワスプ(演:エヴァンジェリン・リリー)は、一躍世界的に有名なヒーローとなりました。
スコットは過去の罪が免除され、街を堂々と歩けるように。道行く人々に声を掛けられ、自伝も出版してそこそこヒットするなど、充実した生活を送っていました。
ホープも、父ハンク・ピム(演:マイケル・ダグラス)より受け継いだ会社で様々な事業を展開し、成功していました。しかし、量子世界より帰還した母ジャネット・ヴァン・ダイン(演:ミシェル・ファイファー)は何か秘密を抱えているようで、なかなか距離が縮まりません。
ある日、スコットの愛娘キャシー・ラング(演:キャスリン・ニュートン)は、ハンクの助力のもと量子世界へ信号を送って監視する人工衛星を開発し、みんなに披露します。しかし、血相を変えたジャネットはすぐに装置を停止するよう警告。その瞬間、装置が暴走を始め、家族は量子世界へと吸い込まれてしまいます。
一体、量子世界で待ち受けているものとは。
そこには、ジャネットが抱える秘密が深く関係しているのでした――。
というのがあらすじ。
本編感想
新たなバース、量子世界
アントマンのシリーズで非常に重要な要素である、量子の世界。それが本作の主な舞台となります。
量子とは何ぞやというと、原子や分子といったナノサイズのものや、それよりも更に小さな物質、あるいはエネルギーの単位のことだそうです。フィクションの分野では、宇宙や異次元などといった「未知の領域」と同じ括りで語られることがしばしばあります。
本作では、量子の世界にもマルチバースのような別宇宙が広がっていることが明かされます。しかもそこは、各バースとは時間も空間も切り離されているとかなんとか。MCU世界にはマルチバースだけではなく、ミラーディメンションやヌールディメンションなどの別次元も存在していますが、更に量子世界という新たな世界も加わり、もう何が何やら。
あ、鑑賞するうえで専門的な知識とかは一切必要ありませんので、ご安心ください。(僕も知識はからっきしです)
自分達の細胞ひとつよりも小さな世界に、自分達と似たような容姿を持つ生物や、全く異なる生態を持った生物がいて、それらが独自の文明を作りあげていることを知り、驚きを隠せない一行。
スコット一家とホープ一家は別々の場所へ降り立ち、お互いを探すために行動することになるのですが、この量子世界を巡る冒険紀行みたいなパートがとても楽しかったです。ほんやくこんにゃく的な赤い液体を飲むことで言葉が通じるようになるなど、「どうして全宇宙人が英語を喋れるのか」という、映画などでよくある疑問をしっかり解消していたのも好印象でした。
頑張るお父さんスコットと、新ヒーローキャシー
スコットは相変わらずとても良いキャラでした。
みんなに顔は覚えられてるけどスパイダーマンだと勘違いされてるとことか、めっちゃ面白かったです。
何気に「ジャンプした瞬間に体を大きくすることでパンチの威力を上げる」みたいな、アントマンならではの戦闘テクがあるのがすごい良かったです。中盤で仮想変異体みたいなスコットがうじゃうじゃと出てきますが、「キャシーを救いたい」という思いは全員共通なのとかも最高でしたね。
スコットが溺愛している娘のキャシーは、強すぎる正義感から時折トラブルを起こしてしまうという、なんともティーンエイジャーらしいキャラになっておりました。『エンドゲーム』の時は幸薄そうな印象でしたが、元気になってくれて良かった。キャストが変わったのはそういう理由かもですね。
本作では紫色のスーツを装着し、パパ顔負けの活躍を見せてくれます。コミックではスタチュアやスティンガーというヒーロー名があるようですが、本作では普通に「キャシー」と呼ばれていました。まぁ、周りみんな家族でしたしね。今後はきっとアントマンに代わるヒーローとして活躍していくんでしょうなぁ、楽しみです。
ホープ一家と、なぜか何も言わないジャネット
この世界のことをいろいろと熟知しているっぽいジャネットが道先案内人のような役割を果たすのですが、量子世界の危険性について家族に何も話していなかった、というのには驚きました。しかも、量子世界に来てからも「話はあとよ!とにかくついてきて!」みたいに歯切れの悪いことばかり言うので、流石にちょっとイラっとしました。そもそもあなたが最初からちゃんと説明してれば、キャシーは信号を送る装置も作ってなかったはずだし、今回のような事態にはなってないんですけど!?
ホープたちはアクシアと呼ばれるコミュニティで、ジャネットと旧知の仲であるクライラー卿(演:ビル・マーレイ)と会うのですが、『ゴーストバスターズ』などの数々の映画などに出演している大御所俳優、ビル・マーレイのサプライズ出演には驚かされました。
クライラー卿とジャネットはかつて男女の関係だったことが匂わされ、ムッとするハンクが可愛い。その後、「俺だって君以外の女性と関係を持ったことはある」と白状しますが、「でも続かなかった。なぜなら、君じゃなかったから」となる一連の流れはもうね、最&高でしたよ。
あとホープは終始ずっと影が薄かったですね…。
見せ場といえば、中盤でスコット助けるところと、ラストでスコット助けるところくらい?キャシーに出番を持っていかれている印象で、ちょっと残念。
1作目ではスコットを鍛える役割を担っていて存在感がありましたが、2作目では出番は多いもののペッツを巨大化するとこくらいしか印象に残ってないし、作品を重ねるごとに影が薄くなっているような…。
スーパーヴィラン、“征服者”カーン
一方スコットたちは、ジェントーラ(演:ケイティ・オブライアン)率いるレジスタンス的な集団と遭遇します。そこへ謎の軍勢が襲撃してきて、スコットとキャシーは捕らえられてしまいます。
牢に入れられた2人の前に現れたのが、“征服者”カーン(演:ジョナサン・メジャース)。
Disney+のドラマ『ロキ』に登場した“在り続ける者”と同一人物…ではなく、彼の死によって解き放たれた、ロキとシルヴィのような並行同位体(劇中では“変異体”と呼ばれていたので、以降はそう呼ぶことにします)。時間や多次元を行き来できる能力を持ち、マルチバース全体に無数の変異体が存在しているという、恐ろしい相手。今後、サノスに代わるアベンジャーズの宿敵として暗躍していくことが予想される、ウェーブ2=マルチバース・サーガのラスボスとなる存在です。
『ロキ』で初めてマルチバースを解放した時にも思いましたが、MCU内では決して花形とはいえないキャラの作品でこれだけ重要なことをやってのける、マーベル・スタジオの胆力というか構成力というか、ほんとすごいなぁと。ワンピースでいうと、ウソップがラスボス倒しちゃうようなもんですからね。
本作のカーンは、何者かによって量子世界に追放されたことがわかります。割とすぐに熱くなる性格や、時折見せる表情などから、もしかしてこのカーンは他の変異体を止めようとしていて、それで追放されたのでは?と思えてきます。容赦なく人を殺しまくっていたのでヴィランには違いないですが、一概に悪い奴ともいえないのでは…という絶妙な塩梅がすごく良かったです。
サイコキネシス的な力を使ったり手からビーム出したりしていましたが、最後はスコットと肉弾戦を繰り広げ、格闘能力も高いことを見せつけてくれます。『クリード3』への出演のために鍛え上げたマッスルをチラ見せしたかったのかな。
最高にイカスぜ、モードック
1作目でメインヴィランだったダレン・クロス(演:コリー・ストール)は、先の闘いで消滅したかと思われていました。しかし実は量子世界で生きており、カーンの手によってM.O.D.O.K.(Mental Organism Designed Only for Killing)として生まれ変わっていました。モードックはコミックでも非常に有名なヴィランで、異常に大きな顔から手足が生えているような、インパクト抜群の見た目をしています。
そんなモードックがいよいよ映画へ登場となったわけですが、映画でもものすごい存在感で最高でした。
彼の目的はスコットやハンクへの復讐ですが、劇中ではキャシーとの戦闘が多かった印象。キャシーに負けたあとの、「こんな姿になって、これから俺はどうしたらいい?」「何にだってなったらいいじゃない!クソ野郎以外のね!」というやり取りにはグッときました。そしてラストバトルでは、カーンのバリアを捨て身の特攻で打ち破るという活躍も見せてくれて、モードックがメインヴィランでも良かったんじゃないかと思うくらいに、大きく印象に残るキャラになっておりました。
今後の展開への種蒔き
モードックや蟻の活躍によって、どうにかカーンを倒すことに成功。
最後、元の世界へ戻るための動力源を破壊してしまい、スコットとホープは量子世界に取り残されてしまうのか…と思いきや、普通に再度ゲートを開いてすんなり戻ってきたので驚きました。まぁ、行き方は前作で既に確立されてるもんね…。
再び元の平穏な暮らしへと戻ったスコットたち。
ふと、本当にこれで良かったのか、自分はとんでもないことをしてしまったのでは…?という疑念が生まれます。
…が、一瞬で「ま、いっか!」となるのが笑えました。いやいいんかい!
こうした肩透かしというか、決して重たくならないような感じがアントマンのシリーズらしくて良かったですけど。
ミッドクレジットでは、カーンの無数の変異体が集まって、「アイツがやられたか…」「フン、所詮アイツは我らの中でも最弱…」的なやり取りをしているシーンが流れます。ファラオみたいなヤツとか、メカメカしいヤツとか、いろいろなパターンがあってワクワクしました。
ポストクレジットではロキ(演:トム・ヒドルストン)がチラッとだけ登場。カーンの変異体のひとりらしき人物を発見し、「カーンは帰ってくる」の字幕が出てきて、映画は終わってました。
おわりに
そんな感じで、感想は以上です。
アントマンらしいコミカルな作風は残しつつも、今後のMCUで起こるであろう大きな戦いへの序章ともなっている、とても良い作品になっておりました。
漫画とかでいうところの「○○編」の第1話といった立ち位置の作品になっておりますので、MCUをまだ見たことがないという方は、本作から見始めても良いのではないでしょうか。
ということで、映画『アントマン&ワスプ:クアントマニア』の感想でした。
ではまた。