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映画『鋼の錬金術師 完結編 復讐者スカー/最後の錬成』感想(ネタバレ)

映画『鋼の錬金術師 完結編 復讐者スカー/最後の錬成』の感想になります。
ネタバレを含みますので、お読みになる際はご注意ください。

鋼の錬金術師』は、2001年~2010年にかけて月刊少年ガンガンにて連載されていた、ダーク・ファンタジー漫画。

錬金術が発達した世界を舞台に、等価交換、生と死、人としての定義、といったテーマを描いた作品となっています。非常に重厚なテーマながら、コミカルな描写も多いため重くなり過ぎず、魅力的なキャラクターが数多く登場することなどもあって、全世界累計発行部数8000万部以上を記録する、超人気漫画です。
しかし、もう連載終了して10年以上経つのか…時の流れの早さよ…。

 

目次

 

映像化について

2003年~2004年にかけてTVアニメも放送され、更に2005年にはTVシリーズのその後を描いた、『劇場版 鋼の錬金術師 シャンバラを征く者』が公開されました。
監督が『機動戦士ガンダム00』や『楽園追放 -Expelled from Paradise-』などで知られる水島精二氏であることから、2003年のアニメシリーズは“水島版”と呼ばれることが多いです。

水島版が放送されていた頃はまだ漫画が連載途中だったので、後半はアニメオリジナルストーリーとなり、それ故に賛否両論あったらしいです。が、僕はこの水島版がめちゃくちゃ好きでして。連載に追いついちゃって途中からアニメオリジナルの展開になるパターンって上手くいかないことが多い印象なんですが、ハガレンに関しては数少ない成功例だと思っています。

どうやら、原作者の荒川弘氏から「こういう最終回にしようと思ってます」みたいな構想を聞いて、それを元にアニメ版のストーリーを組み立てていったらしいです。だからストーリーが違っても、作品の持つテーマとか本質的な部分はブレていなかったのかな、とか思ってみたり。

 

また、2009年~2010年には『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST』のタイトルで、再度TVアニメ化されました。
水島版との混同を避けるために、こちらは“鋼FA”などと呼ばれたりしています。ほぼ原作準拠のストーリーとなっていながら、原作とほぼ同時期に完結するという、なかなか他に類を見ない作品となっています。

なんでも、本来であれば原作はもっと早めに完結する予定だったらしいのですが、色々あって延びてしまい、結果的にほぼ同時の完結になったようです。終盤は荒川氏がラフ状態の原稿をアニメのスタッフに見せ、それを参考に絵コンテを描いたりしていたんだとか。また、原作最終回のボリュームが予想以上に大きかったことから、アニメも急遽1話分追加されたらしいです。
よくそんな事が出来たなぁ…きっとお互い死ぬほど大変だったんだろうなぁ…。

僕は恥ずかしながら未だ原作を最後まで読めておらず、FAもまだ見れてないんですよね…。紙で完全版を途中まで買っていたものの引っ越しの際に売ってしまったので、結局電子で全巻買いなおして、また最初から読み直しているところ。
改めて読むと、多数の読者にトラウマを植え付けたタッカーの話が2巻の最初だったり、その直後からスカーが出てきたりと、展開の早さ、というか話の密度の濃さに驚くばかり。やっぱりすごい漫画だなぁ、と。

 

2011年には劇場版第2弾となる、『鋼の錬金術師 嘆きの丘(ミロス)の聖なる星』が公開。こちらは作中の合間に起こったオリジナルストーリーが展開されているらしいです。原作読み終わってからじゃないと、と思ってこちらもまだ見ていないんですが、オリジナルストーリーなら問題ないやん、と今頃になって知るというね…。

 

実写映画について

そして2017年には、実写映画第1作目が公開。
こちらは僕も鑑賞しておりまして、イタリアで撮影された街並みや、実写とCGを融合した迫力の映像、キャラクターのビジュアルに関しては、かなり頑張っていたと思いました。しかし、主に脚本面はあまり上手くいっているとは言えず、世間の評価も散々な結果に…。漫画原作の実写版でありがちな、失敗例のひとつになってしまったように思います。

僕個人の感想としては、原作から変えているところが悉くイマイチな気がしたのと、ウィンリィがひたすら邪魔だなと思いつつも、松雪ラストは最高だったし、そんなに嫌いではなかったり。

 

そんな実写版ハガレン連載開始20周年を記念したプロジェクトのひとつとして、なんと続編が公開されることとなりました。しかも前後編の2部作連続公開。
それがこれから感想を書く、『鋼の錬金術師 完結編 復讐者スカー/最後の錬成』となります。
“完結編”と付いている通り、1作目の続きから、原作の最終話までが描かれています。

監督・脚本は、前作同様、曽利文彦氏が務めています。実写版『ピンポン』で監督デビューし、3DCGアニメ映画『APPLESEED』を手掛けた、VFX出身の監督さんです。

キャストも、主人公エド役の山田涼介やアル役の水石亜飛夢をはじめ、前作に出演した人たちが続投しているほか、新キャラも多数登場します。

時雨くんがアル役だと知った時には驚いたものです(『魔進戦隊キラメイジャー』より)

しかし、1作目がアレだったのによく続編作る気になったな…。しかも1作目はせいぜい原作8巻くらいまでの内容で、そこから20巻近く続きがあるのに、たった2本の映画で最後まで描き切れるのか…?と不安に思うのは僕だけでなく、ある程度知っている人であれば皆そう思う事でしょう。

まぁ、ダメならダメでそっちのベクトルで僕は楽しめるし、邦キチのネタにでもなればいっか、とハードルを地面につくぐらいまで下げたうえで、鑑賞に臨みました。

 

さて、そこまで書くことも無いので、前後編合わせた感想を書いていきたいと思います。

 

感想 『復讐者スカー』編

↓予告編はこちら。(『最後の錬成』の方の映像もちょっとあります)

www.youtube.com

まずは軽~く第1作目のあらすじ。

史上最年少で国家錬金術師となった、鋼の錬金術師の二つ名を持つ少年、エドワード・エルリック(演:山田涼介)。そして、全身鎧を身に纏ったような容姿の弟、アルフォンス・エルリック(演:水石亜飛夢)。

彼らは幼少期に亡くした母を甦らせようと、錬金術における最大の禁忌である人体錬成を行い、その結果、エドは左脚と右腕を失い、アルは体すべてを失って鎧に魂だけが定着している状態に。エドは失った手足の代わりに機械鎧(オートメイル)と呼ばれる鋼の義肢を装着し、それが二つ名の由来となります。

二人は元の身体へ戻るために、賢者の石と呼ばれる、錬金術の効果を増幅させる特殊な石を探し求めていました。しかし、石の入手まであと一歩というところで、その材料が生きた人間である事が判明。誰かの犠牲の上で自分達だけが救われる事を拒んだ兄弟は、賢者の石以外の方法で、元の身体に戻る方法を探す事を決める――。

と、ここまでが前作のあらすじ。

 

その後、国家錬金術師の連続殺人事件が発生。

犯人は、素性不明で顔に大きな傷跡がある事から、“傷の男”スカー(演:新田真剣佑)と呼ばれる男。非常に高い戦闘力を持つ国家錬金術師たちを、あらゆるものを破壊する右腕を用いて次々と殺害していくスカー。もちろんエドもターゲットとなり、スカーから執拗に狙われる事に。

エドとアルはスカーから逃れることは出来るのか。
そして、復讐の連鎖を断ち切ることは出来のか――。

というのが今回のあらすじ。

 

率直な感想としては、意外と悪くなかったな、と。
原作におけるスカー登場から、ホムンクルスエンヴィー(演:本郷奏多)やグラトニー(演:内山信二)とのバトル辺りまでを、ところどころ省略しつつも割と原作に忠実に描いており、ハードルを思いっきり下げたうえでの鑑賞とはいえ、普通に面白かったです。ただ、やはりダイジェスト感は否めないので、原作を読んでいない人がどれくらい話を理解出来たのかはちょっとわからない…。

 

キャラに関しても、前作同様、なかなか良かったと思います。
特に、シン国の皇子リン・ヤオ(演:渡邉圭祐)と、その従者であるランファン(演:黒島結菜)は、アジア系のキャラという事もあって非常にビジュアルの完成度が高かったです。ただ、もうひとりの従者であるフー(演:筧利夫)は、ちょっと若すぎるかなーと思いました。リンとシン国の次期王位を競い合うメイ・チャン(演:ロン・モンロウ)は、逆にちょっと大人すぎるかなーという印象。

“焔の錬金術師”こと、ロイ・マスタング大佐(演:ディーン・フジオカ)は、ビジュアル面においては前作から全く不満は無かったので、特に言う事なし。リザ・ホークアイ中尉(演:蓮佛美沙子)は前作ではコスプレ感が強かったですが、今回は比較的自然な感じになっていました。

初登場のスカーも、存在感抜群で良かったです。演じる新田真剣佑も、褐色メイクに若干の違和感はあれど、安定感がありました。るろ剣の縁といい、強敵キャラを実写化する時は彼に任せとけば大丈夫ですね(笑)

前作で邪魔しかしていない印象のあったウィンリィ・ロックベル(演:本田翼)も、今回はいい塩梅だったかと思います。ちょっと唐突ではあったものの、スカーに両親を殺されていた事が判明してからの、復讐の連鎖を止めるシーンがちゃんとあったのも良かったですね。

あとはなんと言っても、キング・ブラッドレイ大総統(演:舘ひろし)がまーシブい。彼に関しては、これ以上ない最高のキャスティングではないかと。もうね、一挙手一投足すべてがカッコいい。カッコよすぎて泡吹いて倒れるかと思いました。大総統の息子であるセリム・ブラッドレイ(演:寺田心)も、「人生何回目なんだろ」という雰囲気が漫画そのままで良かったです。心くんは本当にホムンクルスなのではなかろうか…。

ただ、“豪腕の錬金術師”こと、アレックス・ルイ・アームストロング少佐(演:山本耕史)は…悪くはなかったけど、なんで山本耕史なんですかね…。もっと顔が似てて体のデカい役者さんがいると思うんだけどなぁ。「豪華キャスト勢揃い!(ただし日本人に限る)」にこだわり過ぎなの、ほんと邦画の悪いところな気がする。「私の好きな言葉です」とか言ってくれたらまだ面白かったかもしれない(無理)。

 

最後はエド、リン、エンヴィーがグラトニーに食べられてしまい、腹の中=擬似“真理の扉”でエンヴィーが真の姿になって TO BE CONTINUED... てな感じ。後編の予告が流れて、映画は終わってました。
何の前振りもなくエンヴィーが真の姿になるので、原作読んでない人は変身形態のひとつとしか思わないだろうな…。あと連続公開とはいえ、この映画単体でオチを付ける気が一切ない、というのはどうなんだろうか…。

とまぁ、前編はこんな感じでした。

 

感想 『最後の錬成』編

↓予告編はこちら。

www.youtube.com

エド達一行は、「自分自身を人体錬成することで、本物の“真理の扉”を通る」という荒業で、見事グラトニーの腹の中からの脱出に成功。ホムンクルス達に“お父様”と呼ばれている男と顔を合わせることになります。その姿は、エドとアルの父親、ヴァン・ホーエンハイム(演:内野聖陽)に瓜二つでした。

ラスボスであるその男を止めようと錬金術を使おうとするも、何らかの力によって術が発動しません。しかし、スカーの“破壊の右手”とメイの術は使うことが出来たため、どうにかその場を脱することが出来ました。

スカーの兄が遺した研究書に隠されたメッセージにより、“約束の日”と称する敵の真の目的が、「アメストリス国全域を国土錬成陣で囲い、国民全てを生贄にして賢者の石を作り出すこと」だと判明。そんな事は絶対にさせまいと、エドは北部のブリッグズ要塞へ、アルは東部のリオールヘ、スカー達は残って兄が遺した更なるメッセージを探すことに。

軍の中央司令部へ赴いたマスタングは、上層部全員が敵の手の中にあることを知り、部下たちと共にクーデターを起こします。

果たしてエド達は、“約束の日”を阻止することは出来るのか――。

というのがあらすじ。

 

感想としては前編と大体同じ。ダイジェスト感は否めないものの、想像以上によくまとまっていると思いました。

最後の決着の場面では、しっかりと感動することが出来ました。まぁ、これは原作が素晴らしいんだと思います。映画見る前に漫画を全巻読もうと思ってたのに結局読み切れなかったので、原作との違いについては割愛。

 

キャラに関しても大体同じ感想で、コスプレ感はあれどなかなか頑張っていると思いました。

個人的に特に良かったのは、オリヴィエ・ミラ・アームストロング少将(演:栗山千明)ですかね。ビジュアルだけでなく、雰囲気とかの再限度が非常に高かったと思います。さすがはオタク文化に造詣の深い栗山氏、といったところでしょうか。

“紅蓮の錬金術師”の二つ名を持つゾルフ・J・キンブリー(演:山田裕貴)の出番が丸ごとカットされてたのと、“強欲”ホムンクルスグリードのリンを乗っ取る前の姿が出てこなかったのはちょっと残念ポイント。尺の都合を考えると英断だと思いますが、個人的に好きなキャラだっただけに、何とか出して欲しかったという気持ち。キンブリーに関しては、演じる俳優が忙しすぎるのも理由のひとつな気がする。

エルリック兄弟の師匠であるイズミ・カーティス(演:遼河はるひ)は、ビジュアルの再限度は高かったですが、キャラとしては厳しい面ばかりが強調されていたように見えたのが何とも。もっと優しい面も見せてほしかったなぁと。ただ、てっきり出てこないもんだと思ってたので、出てくれただけでちょっと嬉しかったです。

“怠惰”ホムンクルススロウスに関しては、コイツだけフルCGになっていて、しかも原作そのままの姿なので、実写との違和感がすごかったです。どうして実写向けにアレンジしないのか…。下手にアレンジして顰蹙買う、てのを恐れて保守的になる(そして余計に失敗する)のも、邦画の悪いところな気がする。

セリム・ブラッドレイこと“傲慢”ホムンクルスプライド(演:寺田心)は、あまりにもそのまんま心くんでした。やはり心くんはホムンクルスなのでは…。

最後のエドウィンリィのイチャイチャ(死語)シーンは、なんというか、ばっさー(本田翼)のあざとかわいさ全開でたまらんかったですね。あれはどんな男でもコロッと落ちるわ…。

 

とまぁ、こんな感じでした。
上映時間2時間強と割と長めとはいえ、わかっちゃいたけどそれでも原作を網羅することなんて出来るはずもなく。それ故に、全体的にテンポが良すぎて全然ピンチな感じがしなかったり、説明不足な点が多々あったり、手放しに褒められた出来ではないと思います。ですが、それなりにうまくまとめていたと思うし、総じてなかなか楽しめる作品になっていたのではないかと。

 

おわりに

1作目は、シリーズを続けていけるかわからないので、ひとつの映画で区切りがつくように原作を大胆に改変した結果、見事に失敗してしまった感がありました。それを受けてか、完結編はなるべく原作に沿うようにストーリーが構成されていて、そのおかげかそこそこ楽しめるようになっておりました。

ただ、敢えてここまで書かないようにしていたのですが、別の意味で魅力を放っていた1作目に対し、完結編はなんというか、当たり障りのない、凡庸な作品になってしまっているように思います。もともと原作のファンだった人が振り返りの為に見る分にはいいかもしれませんが、新規のファンを獲得出来るかと言われると、ちょっと難しいんじゃないかなー、と言わざるを得ない…。

僕の個人的な思いとしては、いっそアレな方向へ突き抜けてくれた方が好きになれたかも。原作に沿った作りにした結果、ある意味で伝説級の作品になった先駆者もいるわけですし。『デビルマン』って言うんですけど。

ともあれ、決して悪いものではないと思いますので、興味のある方(そしてクソ映画にある程度耐性のある方)は、鑑賞してみてはいかがでしょうか。

ということで、映画『鋼の錬金術師 完結編 復讐者スカー/最後の錬成』の感想でした。

ではまた。